がんと闘う森永卓郎氏、まるまる自己負担の自由診療でクレカは限度額パンパン 後期高齢者を狙い撃つ医療費負担増の改悪に憤り「官僚たちの財政均衡主義にほかならない」
闘う経済アナリスト・森永卓郎氏の連載「読んではいけない」。今回は医療費改革について。森永氏は近年の高齢者ばかり負担が増えるような制度改正は“高齢者いじめ”と疑義を呈する。こうした制度改悪が続く原因は数字を守ることを優先する官僚にあると指摘するが、どういうことか。森永氏が解説する。
* * * 現在がん闘病中の私は、免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」を使った保険診療に加えて、1回の治療費が50万円かかる血液免疫療法という自由診療を併用している。そのほか検査を含めると毎月預貯金が100万円以上減っているのが現状だ。そんなことで、私は3枚のクレジットカードを使い分けているが、うち2枚は毎月の医療費で限度額パンパンになってしまっている。 保険適用下の標準治療でがんと闘うのであれば、「自己負担3割」に加え、所得に応じて一定額以上の治療費が控除される「高額療養費制度」という優遇策がある。 日本が医療に手厚い国であることは間違いないのだが、私のように自由診療に手を出すとそうはいかず、毎月100万円以上の医療費が全額自己負担である。唯一の救いは確定申告の際の医療費控除だが、その上限は年間200万円と決められている。私の場合、たった1~2か月で控除枠を使い果たし、あとは純粋な出費となるのだ。 莫大な医療費がまるまる自己負担となる自由診療と、毎月一定額に収まる保険診療の差はとてつもなく大きい。その事実を身をもって知るからこそ、周囲には保険適用の範囲内での治療を勧めてきた。実際に標準治療だけでがんに打ち勝った人はたくさんいるのだから。 ところが、いま多くの患者にとって頼みの綱である医療費の優遇制度が国に狙い撃ちされている。
「財政均衡主義」を掲げ“高齢者いじめ”をする官僚たち
厚労省は11月21日の社会保障審議会医療保険部会で、高額療養費制度の上限額の引き上げ案を提示。その後の部会で引き上げ幅5~15%を軸として調整に入ったというのだ。 政府が邁進する医療費負担増の企みはこれだけではない。ターゲットとなっているのが、75歳以上の後期高齢者の医療費負担だ。当初は無償だった後期高齢者の窓口負担は2001年に1割負担となり、2006年から現役並み所得者は3割負担となった。2022年からは住民税課税所得が年間28万円以上など、一定以上の所得のある人は窓口負担が1割から2割に引き上げられている。 さらに、である。政府は9月13日に閣議決定した高齢社会対策大綱の中に、後期高齢者について医療費の窓口負担の拡大に向けた検討を行なう方針を盛り込むとともに、3割自己負担となる人の対象範囲拡大に向けて「検討を進める」と明記したのだ。 高齢者いじめともいえる制度改悪の原因は、行政を司る官僚たちの「財政均衡主義」にほかならない。経済学的に何の問題もない財政赤字をことさら問題視し、「国の財源を逼迫させている一因は高齢者の医療費である」として、高齢患者から命の金を吸い上げている。 高齢者に負担増を集中させることで、現役世代のガス抜きをする意図も透けて見える。 国民の命よりも数字を守ることを優先する官僚によって、高齢患者が殺されていくのである。 【プロフィール】 森永卓郎(もりなが・たくろう)/1957年7月12日生まれ。東京都出身。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。日本専売公社、経済企画庁、UFJ総合研究所などを経て現職。近著に『身辺整理』(興陽館)『投資依存症』『書いてはいけない』(ともに三五館シンシャ)など。テレビやラジオのコメンテーターとしても活躍中。 ※週刊ポスト2024年12月27日号