スターバックスがオーストラリアから撤退する理由
本格的なエスプレッソが浸透
スタバがオーストラリア市場で苦戦した理由はいくつかある。最大の要因は、進出した時には既に本格的なエスプレッソやカフェの文化が根付いていたことだろう。英国植民地から独立したオーストラリアはもともと紅茶文化圏だったが、カフェイン飲料の主流は次第に紅茶からコーヒーにシフトした。中でも、戦後に急増したイタリア系移民が持ち込んだエスプレッソが市場を席巻している。なお、イタリアにもスタバは進出できておらず、同じ理由が言えるだろう。 90年代の初め頃はまだぬるま湯のような米国式の薄いコーヒーもガソリンスタンドの売店やコンビニなどでは流通していたが、現在ではそうした店のほとんどがエスプレッソ・マシンを備え、小型のマシンを導入するオフィスや家庭も増えている。アメリカンはほぼ姿を消し、日本の喫茶店などで主流のドリップ式も見られない。内食用のインスタントを除くと、オーストラリアのコーヒー需要の大半はエスプレッソだ。 世界的に評価の高いバリスタを数多く輩出するなど、オーストラリアのエスプレッソの品質は非常に高い。プロのバリスタは大手チェーン店ではなく個人経営の小さなカフェを舞台に活躍している。公共放送SBSによると、こうした零細カフェは国内に約6,500店舗あり、年間売上高は40億豪ドル(約3,800億円)に達している。シドニー市内のこうした小さな店の中には、朝から夕方まで常に行列ができる繁盛店もある。オーストラリア人は1日平均3~4杯のコーヒーを飲むとされるが、お気に入りのバリスタを見つけて同じ店に1日に何度も通う人が多い。 また、質の高い小規模なカフェが強いことに加え、既存の大手コーヒー・チェーンの牙城を崩せなかったこともスタバの敗因の1つと言える。国内の有力チェーンとしては、約460店舗を展開する「グロリア・ジーンズ」、オーストラリアを中心に海外を含む330店舗を運営する「コーヒー・クラブ」、マクドナルドが併設する「マックカフェ」の存在感が強い。スタバはこれらのチェーン店と比較して料金が高めで、海外と同じメニューを現地化せずそのまま導入していたことも消費者に敬遠された形だ。