大規模な伐採、豪雨により「土砂崩れが多発」 見直し求められる林業政策 #災害に備える
国が掲げる「林業の成長産業化」
皆伐が各地で進んだ背景に、政府の大号令もある。日本では太平洋戦争中と戦争直後に木材の需要が高まり、各地で森林が一気に伐採された。そのため、木材不足が深刻化し、価格が高騰。さらに死者・行方不明者1900人以上を出した1947年のカスリーン台風などの水害も多く発生するようになった。 そこで政府は、天然林の伐採跡地にスギやヒノキなどの針葉樹を植栽する「拡大造林」を国策として推進した。1950年代に始まったこのプロジェクトは、その後の15~20年間で約400万ヘクタールを造林した。これは現在の日本の人工林総面積約1000万ヘクタールの約4割にあたる。 その時に植えられた木は、2000年代に入ると「市場に流通できる木材」として注目され始めた。2010年には、菅直人首相(当時)が「森林・林業再生プラン」を打ち出し、高性能林業機械の普及が加速化した。2012年に自民党に政権が移った後は、安倍晋三首相(当時)が国会で「林業を成長産業にしていく」と訴え、森林経営管理法の制定など、主伐によって木材生産量を増やす方向に政策が変わった。主伐とは木材にする目的で木を伐採することだ。そして、2002年に18.8%だった木材自給率は、2020年に41.8%まで回復する。
林業政策に詳しい九州大学大学院の佐藤宣子教授は、政府の補助金も大きかったと指摘する。 「国の補助金制度で、1台数千万円する高性能林業機械を導入する伐採業者が増えました。ただし補助金の条件として、『木材生産量3割増』などがつけられていることが多い。そのため、皆伐を選択する人が増え、伐採量や木材自給率を引き上げました」
盗伐による皆伐も
所有者の知らぬ間に広範囲を伐採する「盗伐」も一部で起きているという。北関東のある県で、父親が所有する森林2ヘクタールが被害にあったという40代女性はこう話す。 「昨年、役所から『伐採届の提出がないまま木が伐られている』と連絡がありました。山に行ってみたら、広く切られていました。祖父が植林の時のことを日記に書くほど大事にしていた山だったんですが……」 盗伐された木のほとんどはスギで、樹齢60~70年。被害額は700万~800万円にのぼった。 林野庁の調査によると、2021年に都道府県や市町村への盗伐関連の情報提供や相談は105件あった。だが、ある被害者は「安い金額で示談してしまった人もいる。被害者はもっとあるのでは」と話す。