大規模な伐採、豪雨により「土砂崩れが多発」 見直し求められる林業政策 #災害に備える
山津波の発生源の多くは「はげ山」
熊本県南部で起きた土砂崩れや土石流。大きな原因となったのは豪雨だろう。球磨村では24時間雨量が観測史上最高となる534ミリを記録し、山に大きなダメージを与えた。 だが、現場を調査すると別の要因も見える。高沢集落から5キロほど車で上がり、山の尾根付近に近づくと、眼前に異様な光景があらわれた。皆伐の跡地の数々だ。Googleマップの衛星写真で確認すると、50ヘクタール以上はある。東京ドーム約10個分だ。
こうした皆伐は2000年ごろから各地に広まった。背景には木材の低価格化と高性能機械の登場がある。日本の木材市場は安い輸入材に押され、国産でもなかなか高い値段をつけられない。業者が利益を出すにはコスト削減、つまり一度に広範囲の伐採が必要になる。従来のチェーンソーなどを使った林業に比べて、効率的に伐採できる高性能な機械が登場したこともあり、皆伐は増えていった。 また、皆伐をする際の国の上限基準は1カ所あたり20ヘクタールと広く、山の所有者と伐採業者の合意で自由に木を切れることも皆伐が広まった要因だ。皆伐後、国は業者に苗木を植える再造林を求めているが、手間と費用がかかるためこれをしない業者もいる。
「皆伐で表層崩壊の危険性高い」
皆伐が進む一方で、「伐採した後の裸地は、雨水の侵食に対する抵抗力が低下する」と指摘する専門家もいる。鹿児島大学農学部の寺本行芳准教授(砂防学)もその一人だ。 「森林を伐採し、再造林も放棄した場合、侵食や崩壊に対する抵抗力が戻るまでに50~60年かかると推定されます。伐採直後に再造林をした場合でも、豪雨に耐えられるほどの状態に戻るには少なくとも20年程度の期間が必要です。それまでは抵抗力が低く、表層崩壊の危険性が高い」 それを裏付けるデータもある。寺本氏らの研究班は、球磨村で皆伐前と皆伐後を比較し、おもに雨によって発生した土砂の生産量(流出量)の変化を調査した。 皆伐前の木が生い茂った土地では年間の土砂生産量の推計が1平方キロメートルあたり980立方メートルだったのに対し、皆伐して再造林もしていない土地の生産量は1万6960立方メートルだった(2002年から07年までの5年間平均)。皆伐後、土砂生産量が約17倍に増えたことになる。