ユニファイド・サービス 甲斐博一氏「ストック型マーケティングとストーリー生成ディレクションの実践」
──2025年に向けて見えてきた課題は何ですか。
いくつかの変化をもたらした2024年ですが、私の目の前に浮かび上がってきた課題は、上述した2つの大きな現象に深く関連しています。 25年にわたるマーケティングキャリアのなかで、確かに私はソーシャルメディアを活用した数々のキャンペーンを手がけてきました。しかし、今になって振り返ると、それらは結局のところ、企業という一方向からの視点で設計された施策にすぎなかったのではないか、と疑わざるを得ない状況をもたらしています。真の意味での「共創」という発想に至らず、短期的なROIという数値を追いかけることに終始していなかったか。この気づきは、私に大きな示唆を与えてくれました。 いま、ソーシャルメディアを中心とした新しい社会の姿が見えてきたなかで、マーケティングに求められる役割も、大きく変わろうとしています。それは、一時的な反応を追い求めるフロー型から、持続的な関係性を育むストック型へのパラダイムシフト。この認識は、私にとって大きな転換点となりました。一方で、この新しい概念を企業の経営システムにいかに組み込んでいくのか。それは、マーケティングの成果指標の再定義という観点からも、今後の重要な課題となることは間違いありません。 また、生成AIについては、フルAIによる動画生成を今年本格的に経験する機会を得ました。まだ世に問うには至っていないものの、この経験を通じて、マーケターという職能について、新たな気づきを得ることができました。それは、これまでもマーケターのスキルの一部として存在していた「ストーリー生成ディレクション」という能力が、AIの時代においてより一層鮮明な形で浮かび上がり、今後のマーケターの質を決定づける重要な要素となっていくだろうという予感です。このスキルの重要性の再定義は、マーケティングをはじめとする企業組織全体のあり方にも大きな影響を与えていくのかもしれません。
──2025年にチャレンジしたいことを教えてください。
2024年に経験したいくつかの変化は、2025年への扉を開く鍵となるはずです。その先にある未来を見据えながら、いくつかの実験的な取り組みにチャレンジしていきたいと考えています。 もっとも重要な取り組みとして位置づけているのが、ストック型マーケティングへの転換です。これは単年度で成果を求められるものではなく、数年という時間軸で取り組むべき課題です。これまでマーケティングは、短期的なP/Lへの貢献を主眼に置いてきました。しかし、これからは企業ストック指標であるB/Sへの貢献、つまり企業価値の向上にフォーカスを当てていく必要があります。 ただし、ここでの課題は、B/Sは財務指標であるため「ブランド価値」「知財の価値」「新たな顧客創造」など可視化しにくいものをどう可視化していくか。企業と社会との関係性の側面であるブランドや、共創による価値創造といったマーケティング活動の成果を経営に根付かせる活動もまた重要だと考えています。2025年は、こうした新しい活動と新しい指標づくりにチャレンジしていきたいです。 もうひとつの重要な挑戦は、「ストーリー生成ディレクション」の実践です。この取り組みは、段階的なアプローチを想定しています。まず第一段階として、マーケターが描くストーリーをAIとの協業によって、より社会に響く形に昇華させていきます。そして第二段階では、そのストーリーを起点に社会との共創へと発展させていく。 ただし、この順序自体が最適なのかどうかは、まだ確信が持てません。むしろ、社会との共創を先行させ、そこから生まれた価値をAIの力を借りながらストーリーとして紡いでいく、という逆のアプローチも考えられます。2025年は、この2つのアプローチを並行して検証していくことができないかと思案しています。 これらのチャレンジは、いずれも確実な答えを持ち得ない実験的な取り組みです。しかし、急速に変化する社会システムのなかで、企業と社会がよりよい関係性を築いていくためには、こうした実験的な取り組みこそが重要だと確信しています。自分自身だけでなく、まわりの業界の仲間、そしてマーケティング業界全体の取り組みも学習させていただきながら、2025年は自分なりにマーケティングと経営をさらに進化させていく年にしたいと思います。 変革期だからこそ、果敢な実験と誠実な対話を重ねながら、未来への確かな一歩を踏み出していきたいと考えています。 ・年末年始企画「IN/OUT 2025」の記事一覧
編集部