考察『光る君へ』34話『源氏物語』が宮中を席巻!光る君のモデル探しに公卿たちも夢中、一方まひろ(吉高由里子)のおかげで出世した惟規(高杉真宙)は危うい恋の垣根を越えようとしている?
大河ドラマ『光る君へ』 (NHK/日曜夜8:00~)。舞台は平安時代、主人公は『源氏物語」の作者・紫式部。1000年前を生きた女性の手によって光る君=光源氏の物語はどう紡がれていったのか。「藤式部」と呼ばれることになったまひろ(後の紫式部/吉高由里子)の書く『源氏物語』は宮中で大人気連載小説になり、一条天皇(塩野瑛久)が話を聞きに訪ねてくるほどです。34話「目覚め」。ドラマを愛するつぶやき人・ぬえさんと、絵師・南天さんが各話を毎週考察する大好評連載36回(特別編2回を含む)です。
面構えも心構えも違う女
大和国(奈良)から都に列を成してやってきた興福寺のコワモテ僧侶集団。 大河ドラマ『平清盛』(2012年)で見た強訴だ! と思わず盛り上がってしまう。 強訴とは主に平安時代から室町時代にかけて、寺社勢力が朝廷・幕府を相手に武器を取って押し寄せ、自分たちの訴えを通そうとする行動のことだ。この世の全てを掌握したかのように権力を振るった白河法皇でさえ、その意のままにならぬものの例えとして「賀茂川の水、双六の賽の目、山法師」を挙げたが、「山法師」は比叡山の強訴に悩まされたことを指す。 33話で道長(柄本佑)が一条帝(塩野瑛久)を「今は寺や神社すらも武具をたくわえる世……」と諫めていた。貴族たちが統治する平安時代でも武力がものをいう社会はじわじわと始まっているのだ。 「この屋敷を焼き払い奉る」という、定澄(赤星昇一郎)の最上級敬語による脅し文句。 それに道長は少しも慌てず「やってみよ」と……生来の豪胆さに加え、政治家として育ててきた肝の太さがそう言わせているようだ。ただこの屋敷、倫子(黒木華)の財産なんですけどね。 道長「私を脅しても無駄である」 左大臣だけを脅迫しても即効性がないと判断した定澄は、強訴の一団を朝堂院に乱入させた。さすがに明らかな武器は携えていないものの、松明を手に集団で押し入ってこられれば十分に脅威である。 騒然とする内裏と後宮──中宮大夫である斉信(金田哲)から命懸けで中宮様を守れと命じられて狼狽える、あるいはピンと来ず立ちすくむ女房たちの中で、まひろ(吉高由里子)は落ち着いている。華やかな内裏での活躍が始まったので忘れそうになるが、幼い頃に母・ちやは(国仲涼子)を目の前で斬殺され、友である直秀(毎熊克哉)と散楽一座の遺体をその手で葬り、慈しんだ教え子・たね(竹澤咲子)を疫病によって奪われ、悲田院で地獄を見た。恋に落ちかけた男・周明(松下洸平)に凶器を突きつけられたこともある。ひとつでもあれば十分であろう数々の修羅場を踏んだ経験が、高貴なお嬢様揃いの女房ズとは一線を画す胆力となっている。面構えも心構えも違う女なのだ。 この騒動の中で、おや? と思ったのが道長の右大臣・顕光(宮川一朗太)への言葉遣いだ。 30話・寛弘元年(1004年)の陣定場面では、道長は顕光へは敬語を使っていたのだ。それが寛弘3年(1006年)の今、切迫した状況とはいえ完全に命令口調になっている。ふたりの官位は左大臣と右大臣で(※左大臣のほうが上)寛弘元年から変わりはない。変わったのは心理的なポジションか。 これまでドラマの中で道長への丸投げぶりが描かれてきた顕光。20歳以上年嵩の従兄である彼に対して、道長はもう遠慮していない。道長が政治家としてのギアをまた一段階上げたように見える。
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