考察『光る君へ』34話『源氏物語』が宮中を席巻!光る君のモデル探しに公卿たちも夢中、一方まひろ(吉高由里子)のおかげで出世した惟規(高杉真宙)は危うい恋の垣根を越えようとしている?
光る君が何をしたいのかわからない
まひろの局に中宮・彰子が訪ねてきた。左衛門の内侍(菅野莉央)に「そなたはよい。下が れ」と命じる彰子に、内侍と一緒に軽くびっくりしてしまったが 「そなたの物語だが、面白さがわからぬ」 という台詞で納得した。これを他の女房に聞かれたら「中宮様は藤式部の物語がお気に召さないらしいわよ」という噂がパーッと広がってしまう。忌憚ない感想を述べるため、そして藤式部を気遣っての人払いだったのだ。 「雨夜の品定め」の男の本音トークがよくわからない、光る君が何をしたいのかわからない。 であるのに、帝はこの物語をお気に召している。それはなぜ……と不思議に思い、作者と話をしにきたのだ。この彰子の感想はよくわかる。私も中学生くらいの時は「雨夜の品定め」が理解できず、夕顔(光源氏の親友である頭中将の恋人)登場の前フリ程度に捉えていたような気がする。 読み返して、紫式部の洞察力に感嘆したのは大人になってからだ。 そこに駆け込んでくる敦康親王。睦まじい様子の、帝の御子と藤壺の中宮。 風に揺れる「原稿用紙」の意味ありげなこと………。
『源氏物語』は宮中で大人気連載小説に
皆が読んでいるのは第三帖「空蝉」だ。帝が皆に読ませようとおおせになった通りに書き写され装丁され、内裏でさまざまな人の手にわたっている。 「空蝉」──光源氏17歳。肩がこる正妻・葵上の家から方違え(凶の方角を避け他の方角にある家に行くこと)で移り泊まった家で、人妻である空蝉と無理やり関係を持つ。その後、あの夜はなかったことにしてくれと恋文をはねつける空蝉に、光源氏はますます熱中した。(ここまでは第二帖「帚木」)そしてまた巡ってきた方違えの夜。空蝉と継子である娘・軒端の萩が並んで眠っている部屋に光源氏は忍び込んだ。彼に気づいた空蝉はそっと寝室から逃げ出す。男は軒端の萩に体を寄せて初めて、これは目当ての人妻ではない! と驚いたけれども、娘が目を覚ましてしまったので「たびたび方違えに来ていたのは、実はあなたにお逢いしたかったからなのですよ」と言いくるめて、そのまま抱いてしまう。 皆が読んでいたのは、この空蝉に逃げられた後に光源氏が軒端の荻をごまかし口説く場面。 公任が「とんでもないな、この男」。ね、まったくねえ。 行成(渡辺大知)は、突然のことに驚く軒端の荻の描写に、少し胸を痛めているようだ。そして斉信! 小少将の君(福井夏)とそういう関係になっていたのか! 「男をまだ知らぬようにしては大人びていて、弱々しく思い乱れることもありません」 含み笑いをして小少将の君を見上げる。君の初めての閨の様子はこうだったよと言わんばかりだ。彼は若い頃は清少納言(ファーストサマーウイカ)と緊張感ある恋の駆け引きを楽しんでいたようだが、地位を得てよりどりみどりの立場で、歯ごたえのある女よりも与しやすい娘を狙うようになるのはオッサンの証である。このシーンは困難な相手との恋に燃える、若き光源氏との対比のようだ。 筑前の命婦(西村ちなみ)が読み上げる内容に、ドキドキしたり眉をひそめたり、女房の皆さんも夢中。『源氏物語』は宮中で、大人気連載小説となった。 物語が持つパワーで、読者を獲得してゆく様子が楽しい。 彰子にまひろが「私の願い、思い、来し方を膨らませて書いた物語」と語ったが、ドラマでは15話で道綱がさわ(野村麻純)をまひろと間違えてしまったエピソードがそれに当たるか。馬鹿正直に「あれ? すまぬ、間違えておった」と口にして撤退した道綱も「以前からあなた目当てで」とスラスラと騙してコトを遂げてしまう光源氏も、どっちもひどい。 そもそも不意打ちで抱こうとするな。手順を踏め、手順を。
【関連記事】
- 考察『光る君へ』18話 道兼の死に涙するとは…玉置玲央に拍手を!まひろ(吉高由里子)は人気ないらしい道長(柄本佑)に「今、語る言葉は何もない」
- 考察『光る君へ』まひろ(吉高由里子)、帝(塩野瑛久)に物申す!伊周(三浦翔平)隆家(竜星涼)兄弟の放ってはいけない矢…虚実が揺さぶる19話
- 考察『光る君へ』20話 中宮(高畑充希)が髪を切り落とした重大な意味、ききょう(ファーストサマーウイカ)の衝撃はいかばかりか
- 考察『光る君へ』21話 中宮(高畑充希)のいる世界の美しさを謳いあげた『枕草子』は清少納言(ファーストサマーウイカ)の「光る君へ」
- 考察『光る君へ』26話「中宮様が子をお産みになる月に彰子の入内をぶつけよう」愛娘をいけにえとして捧げる道長(柄本佑)に、権力者「藤原道長」を見た