考察『光る君へ』34話『源氏物語』が宮中を席巻!光る君のモデル探しに公卿たちも夢中、一方まひろ(吉高由里子)のおかげで出世した惟規(高杉真宙)は危うい恋の垣根を越えようとしている?
左大臣と藤式部は女房たちの間で噂に
藤壺でますます仲良く過ごす中宮・彰子(見上愛)と敦康親王(渡邉櫂)……親王は健やかに成長し、美しい少年になっている。長保元年(999年)生まれだから7歳か。彰子を母のように姉のように、たった一人の友のように慕っているのがよくわかる。 親王に会いに帝は藤壺に渡り、そしてまひろの書く物語は帝と彰子の共通の話題になってはいるが、いまだにふたりの間に体の触れ合いはない。 彰子の父・道長の焦りは募る……権力者として娘に帝の子を産ませねばならない、という動機だけであれば、まひろは反発しただろう。しかし、道長には「このままでは不憫すぎる」という父として娘を思う気持ちがあるからこそ、力を尽くそうとするのだ。 そして予想はしていたが、左大臣と藤式部は女房たちの間で噂になっていた。 「足を揉む仲(※男女の仲)とは思えませんけど」「ひたひたしてる」 「ひそひそではないの?」「ひたひたよぉ!フフフ」 ひたひた……? なに? と思ったが、どうやら密着しているさまを指しているらしい。相変わらず、優雅なのに表現がゲスいっすね。
大丈夫か惟規よ
帝と中宮の関係に進展のないまま、寛弘4年(1007年)。倫子が四女・嬉子(よしこ)を産んだ。ナレーションで「6度目の出産は重く、倫子はしばらく寝込んだ」とあったが、この時点で倫子は43歳。そりゃ寝込みもするでしょう……お疲れ様です。 同じ日に、斉信の屋敷が焼けた。茫然自失の顔が上手すぎて、笑ってはいけない不幸なのに笑ってしまう。しかし、貨幣がまだ定着しておらず当然銀行も保険もなく、財産=物そのものである時代の火事なのだから、こんな顔にもなるだろう。 下手すぎる慰めをする道綱(上地雄輔)と、そういうの逆効果なんで……とやわらかく指摘する公任(町田啓太)。今回はここに出てきていないが実資(秋山竜次)も合わせて、公卿衆のやり取りが楽しい。いまだかつて、貴族たちがこんなにも親しみを持って見られたことがあっただろうか。酷い目に遭ったシーンなのに、そんなことを考える。 蔵人(くろうど/天皇の秘書的な役割をする部署)の空きに伊周(三浦翔平)の嫡男を希望する帝と、さりげなくまひろの弟・惟規(のぶのり/高杉真宙)を推す道長。ガッツリ縁故採用じゃないですか……何度も繰り返されて、こちらも慣れてきた感がある。ただ、為時(岸谷五朗)を推挙した当時は元カノへの経済的支援だったが、今はまひろの藤式部としての仕事を評価、更なる業績を期待をしてのご褒美的抜擢という変化はある。 そして待ってました! 伊周の嫡男、藤原道雅(福崎那由他)、のちの荒三位が登場! 彼が小倉百人一首「今はただ思ひ絶えなむとばかりを……」の作者であることは、ドラマレビュー29回で触れた。29話で父から厳しく舞楽の稽古を仕込まれていた松君が大きくなった。そして予想通り、父親への反抗心を滾らせている。毎日あの調子で「お家再興」「左大臣家への復讐」の圧力をかけられていたら、そりゃあこうなりますわという気はする。 道雅と同じく六位の蔵人に取り立てられた惟規が、姉・まひろの局に訪ねてきた。父上のおさがりの袍がよく似合うよ!おめでとう!この姉弟の会話場面が大好きなので、内裏のシーンでも見られて嬉しい。 蔵人として昇殿を許されたら美しい女房たちが気になるらしく、 惟規「神の斎垣を越えるかも。俺」 おいおいおい……ご記憶だろうか。6話で若き道長がまひろに送った恋の歌を。そして、ドラマレビューではその本歌であろう『伊勢物語』と『万葉集』の歌を紹介した。『万葉集』の詠み人知らずの歌は ちはやふる神の斎垣も越えぬべし今は我が名は惜しけくもなし (神聖な垣根を越えてしまいそうだ。今は私の名前も名誉も惜しくはない) というもの。「神の斎垣を越える」は恋の情熱を歌う、表現の一つだった。危うい垣根を越えようとしていないか、大丈夫か惟規よ。推挙してくれた左大臣様(道長)のお顔をつぶさないでねとまひろは言ったが、道長の面目はともかく、見ていて心配になる。
【関連記事】
- 考察『光る君へ』18話 道兼の死に涙するとは…玉置玲央に拍手を!まひろ(吉高由里子)は人気ないらしい道長(柄本佑)に「今、語る言葉は何もない」
- 考察『光る君へ』まひろ(吉高由里子)、帝(塩野瑛久)に物申す!伊周(三浦翔平)隆家(竜星涼)兄弟の放ってはいけない矢…虚実が揺さぶる19話
- 考察『光る君へ』20話 中宮(高畑充希)が髪を切り落とした重大な意味、ききょう(ファーストサマーウイカ)の衝撃はいかばかりか
- 考察『光る君へ』21話 中宮(高畑充希)のいる世界の美しさを謳いあげた『枕草子』は清少納言(ファーストサマーウイカ)の「光る君へ」
- 考察『光る君へ』26話「中宮様が子をお産みになる月に彰子の入内をぶつけよう」愛娘をいけにえとして捧げる道長(柄本佑)に、権力者「藤原道長」を見た