犯罪を繰り返した58歳の知的障害者が「ぼく、やっぱり戻りたい」と語る支援施設 近隣は反対、行政は圧力…それでも受け入れ続けた
Yさんが出所後、直接ゆうとおんに戻ることを行政はよしとしなかった。そこで刑務所にいる本人を説得し、この先の2年間、府立の入所施設で生活訓練することになった。閉ざされた人間関係の中で規則正しい生活をこなし、アンガー・マネジメント(怒りのコントロール)や会話のロールプレイによるソーシャルスキルトレーニングなどのさまざまなプログラムを受けた。 犯罪を誘発しない生活環境へと調整し、訓練で本人の認知と行動変化を導くことが、触法障害者への専門的な対応といわれる。職員からは事件と向き合わせ、内省を促す働きかけもしていた。ゆうとおんや考える会は、もともと規範意識が強いYさんが、必要以上にその意識にとらわれないか心配した。 ▽管理的対応で強いストレス 事件から8年後の2015年5月にYさんはゆうとおんに戻った。ゆうとおんは、触法障害者への対応では「素人集団」と見られており、「再犯させてはならない」との強いプレッシャーを行政サイドや触法の専門家から受けていた。本人も、もう失敗できない、と身構える中で、恐る恐る地域生活が再スタートした。
まず彼にトラブルや混乱を引き起こさせないため、分かりやすい生活を提供する名目で、利用者と職員がやることの線引きを徹底した。逸脱行為があると「ここからは職員の仕事なのでタッチしないで」と毅然と指摘する。また、軽作業などの日中活動とグループホーム(夜間の見守り)にはそれぞれキーパーソンという責任者を付けて、彼の動静を細かくチェックした。毎週末には、面談者が一対一で生活の振り返りをする時間を設け、心の状態を探った。 だがこうした管理的な対応は、Yさんに強い緊張とストレスを与えた。普段から飲んでいる薬の飲み忘れを翌日に気付くと、「ぼくなんでこんな失敗してしまったんだろう」ととらわれた。そしてパニックになり、職員を殴りつけて鼻の骨を折るけがをさせてしまう。行政サイドは「再犯の恐れあり」と態度を硬化させた。1カ月間の精神科入院を挟んでゆうとおんに戻る際には、支援者は「次にやったら、ゆうとおんにはいられなくなる。地域で暮らせなくなる」と厳しい警告を出すしかなかった。