「神武天皇」は本当に存在するのか…日本人が意外と知らない「日本人の起源」をめぐる「神話」の真実
神武天皇、教育勅語、万世一系、八紘一宇……。私たち日本人は、「戦前の日本」を知る上で重要なこれらの言葉を、どこまで理解できているでしょうか? 【写真】「神武天皇」は本当に存在するのか…日本人が意外と知らない「日本人の起源」 右派は「美しい国」だと誇り、左派は「暗黒の時代」として恐れる。さまざまな見方がされる「戦前日本」の本当の姿を理解することは、日本人に必須の教養と言えます。 歴史研究者・辻田真佐憲氏が、「戦前とは何だったのか?」をわかりやすく解説します。 ※本記事は辻田真佐憲『「戦前」の正体』(講談社現代新書、2023年)から抜粋・編集したものです。
関心が高まる神武天皇
これにくらべるとあまり知られていないものの、2022(令和4)年3月には、古屋圭司衆院議員が「神武天皇と今上天皇は全く同じY染色体であることが、『ニュートン誌』染色体科学の点でも立証されている」とツイッターで発信して一部で話題になった。 あたりまえながら、染色体は実在の人物にしかないので、これは神武天皇の実在を前提としていることになる(そもそも科学雑誌『Newton』は同趣旨の論文掲載を否定している)。 いや、天皇だって祖先をたどっていけば誰かにたどりつくのだから、そのひとりが神武天皇だという反論もあるかもしれない。 だが、縄文時代や弥生時代、どこかの竪穴住居に住んでいた人物Xはただの人物Xなのであって、八紘一宇の理念を唱えたとされる神武天皇とイコールではない。モデルとなった人物が仮にいたところで結論は同じだ。なんともずさんだが、この手の実在論は根強く存在する。 政治家の発言に限らず、近年、神武天皇にじわじわと関心が高まっている。国立国会図書館のデータベースで検索すると、神武天皇と冠した本は、2010年以降で60件ヒットする。1980年代は8件、90年代は12件、2000年代で17件にすぎないにもかかわらず、だ。 また令和に入ってからだけで、神武天皇像が岡山県笠岡市に、神武天皇の記念碑が三重県熊野市に、それぞれひとつずつ建てられている。ゆかりのある神社で、神武天皇の顔ハメパネルにまで出くわすこともある。戦前のひとがみたら、驚嘆するしかないだろう。