「神武天皇」は本当に存在するのか…日本人が意外と知らない「日本人の起源」をめぐる「神話」の真実
スピリチュアル化する神武天皇
神武天皇はときにスピリチュアルな文脈でも顔を出す。 安倍昭恵夫人は、安倍元首相銃撃事件を受けて「神武天皇にゆかりのある奈良の大和西大寺で(引用者註、安倍元首相が)亡くなったんだから、それが意味することがすべてなの。そういう運命にあったのよ」と述べているといわれる(加藤康子「幼馴染が語る総理と母、洋子さん」『月刊Hanada』2022年11月号)。 神武天皇に注目するのが悪いといいたいのではない。神話や日本人のルーツに関心をもつことは、けっして責められるべきことではない。憲法などにそこで示された理念を盛り込むことも、内容によってはかまわないだろう。 ただ、われわれが神話をよく知らないことをいいことに、政府や与党に手垢にまみれた八紘一宇を唱えだされても困ってしまう。かえって神話をないがしろにするような、いい加減な神武天皇実在論の横行も困りものだ。 現在でも、建国記念の日や日本サッカー協会(JFA)のマークなどは神武天皇と関係している。その記念碑や史跡が地域振興に用いられている例も少なくない。2020(令和2)年11月、JRの宮崎駅が神話にもとづいて、西口を高千穂口、東口を大和口と改称したことをどれくらいのひとが知っているだろうか。 日常の延長線上にあるからこそ、神話を神聖不可侵にせず、かといって毛嫌いしない。いま、それぐらいの適度な距離感が求められているのではないか。 そんな距離感を手にするために、まずは神武天皇をめぐる歴史からひもといてみたい。 さらに連載記事<戦前の日本は「美しい国」か、それとも「暗黒の時代」か…日本人が意外と知らない「敗戦前の日本」の「ほんとうの真実」>では「戦前の日本」の知られざる真実をわかりやすく解説しています。ぜひご覧ください。
辻田 真佐憲(文筆家・近現代史研究者)