トップリーダーが実践している「人前でも緊張を見せない」4つのテクニック
「伝わる人」になれる発表の立て直し方4つ
①緊張緩和の応急処置「痛点刺激」 緊張を痛みで上書きして消す方法です。いま感じている緊張感を別の刺激で上書きするのです。 話している途中で緊張して冷や汗が出たり、心臓がバクバクしていることを自覚したりしたタイミングで、自分で自分に痛みを与える動作を行います。例えば、自分で自分の足を踏む、両手をあわせてパンと叩く、太ももを手で叩くなどです。すると、緊張感が痛みによって上書きされ、いったんリセットされます。 ②別の動作を挟む 立て直しをする際、取り入れやすい方法が別の動作を挟むというものです。 緊張を自覚したら、持っているマイクを逆の手に持ちかえる(この方法を取り入れるためにもマイクはピンマイクではなくハンドマイクがお勧め)。ポインターやペンなど手に持っているものであればなんでもOK。その他、手元の資料や本をトントンと音を立てて重ねて置きなおす。用意していた水を飲むのもよいでしょう。本番中に水を飲む行為は失礼にあたりません。どんなに高級な水差しに入っていたとしても飾りではないのです。 この方法は、素晴らしいおまけがついてきます。 それは「間」。持っている物を逆の手に持ち直すなど別の動作をするときには、黙って行います。そうするとそこに間が生まれます。緊張を感じさせない堂々とした話し方をする人の特徴は、間を取りながら話すことです。 自分では緊張緩和のために行っている動作が、相手には堂々とした話し方に見えるなんて、なんてお得な方法なのでしょう! ぜひお試しください。 ③実況中継 ● スライド資料が固まってしまって先に進まない ● 流れるはずの動画から音声が聞こえない ● オンラインのプレゼンで画面共有ができない このように想定していたことがうまくいっていないと、緊張して手に汗をかいてしまいます。そんなときは慌てず騒がす、実況中継。今この瞬間、自らに起きている状況を言葉にします。 「次のスライドに行きたいのですが......おかしいですね。固まってしまって動きません」 「こちらの動画に音声が入っているはずなのですが聞こえませんね。再度やり直してみますのでお待ちください」 「いま画面共有で資料をお示ししようとしているのですが、うまくいきませんね。スライド資料が見えますか?」 取り繕ってこっそり修正しようとするのではなく、自分が今何に困っているかを実況中継しましょう。 ここで注意したいのは、「謝らない」ことです。 「すみません。人前で話すのは慣れていなくて......」 「さきほど試したときにはうまくいったのですが......。申し訳ありません」 「すみません」、「申し訳ありません」と、焦りながらぺこぺこと頭を下げる姿を見たら聞き手はどう思うでしょうか。「この人、大丈夫?」「頼りないなぁ」と不安を感じるでしょう。 段取り通りに行かなくても焦る必要はありません。その段取りを知っているのはあなただけ、もしくは一緒にやってきたチームメンバーだけなのです。そのくらいの図太い心構えでいましょう。開き直ってしまえば、謝罪の言葉は出てこなくなります。 ④自己開示 緊張しすぎて本章でご紹介した緊張対策の言葉さえも思い出せない。そんな極限状態に陥ったら最後の手段。「緊張しています」と正直に言いましょう。「自己開示」です。 聞いている相手も、同じような状況で緊張してしまった経験が多かれ少なかれあるはずです。正直に白状するあなたを笑ったり馬鹿にしたりする人はいません。温かく応援してくれるはずです。 このときのコツは、「実は」をつけて告白すること。 「実は、人前で話すのは苦手なんです」 「実は、この内容を話すのは今回が初めてなんです」 トップリーダーが、あえて弱みを自己開示するときの公式です。 「実は○○なのです」+「しかし、○○をするためにお話ししたいのです」 この組み合わせを語ることで、相手はあなたの応援者となることでしょう。 このほかにも、本書では計8つの対処方法をご紹介しています。 最後に大切なことをお伝えします。そもそも、なぜ緊張するのでしょうか。 緊張するのは、意識のベクトルが自分に向かっているからです。 「こんなに大勢から見られると緊張する」「失敗したら笑われそう......」など「~される」という受け身の状態です。そうではなく、「~させる」くらいの気持ちで積極的に自分から攻めていきましょう。緊張を感じたら、自分がいま人前に立っている目的を今一度思い出しましょう。 話し手に「このためにいま自分は伝えているんだ」「聞き手に~させるんだ」という能動的な姿勢がなければ、たとえセルフ・パペットをうまく操ったところですべて演技でしかありません。 目的を思い出すことで、伝えたいメッセージは内面から湧いてきます。それが聞き手には話し手の情熱として届き、相手を動かすことができるのです。能動的な意識で人前に立ちましょう。そうすることで緊張はいつの間にか消え、「伝わる人」になることができるはずです。
矢野香(国立大学法人長崎大学准教授)