「ミツバチ絶滅で人類は滅びる」ハチミツだけではない、知っているようで知らないミツバチのこと
養蜂家のくらし
こうしたミツバチの役割を担うために、大規模養蜂家は開花に合わせて全国を移動し、蜂群を増やしながら受粉群を増やし採蜜もする。「転飼」という江戸時代にできた技術である。 花粉交配ミツバチは、養蜂業者から施設園芸農家にリースや販売される。花粉交配用ミツバチが不足した時には他県から供給するしくみもある(日本養蜂協会など)。「養蜂振興法」という法律があり、転飼先の都道府県から予め許可を得ることが義務となっていて、ミツバチの飼養者間でのトラブル防止が図られている。 転飼養蜂家は早春から本州以南で咲く花から蜜を集めながら、ハチを育成しながら北上していく。主に上質なハチミツがとれるアカシアの開花に合わせて移動し、夏は北海道で過ごす。北海道で蜂群を5倍ほどに増やし、秋には本州以南に持ち帰り園芸作物の受粉に活用する交配群を供給する。 転飼の届け出数(件数と群数)は13年に2384件、14万6756群だったのが、23年には、1908件、12万9708群と減少傾向にある。(図1 農林水産省 畜産局令和6年3月「養蜂をめぐる情勢」8.蜜蜂の転飼)
ハチと農薬
農薬によるミツバチの被害はいまだ絶えないといったイメージがあるかもしれないが、農林水産省によるとここ数年の被害件数は減少傾向にある(表2)。その裏には、農薬工業会と日本養蜂協会という一見対立団体同士が共同対策事業を行うなど協力して活動していることにある。10年にわたってミツバチのネオニコチノイド系殺虫剤による被害究明や対策について農研機構や大学、農薬会社らが試験調査事業を行ってきた成果ともいえる。 ネオニコチノイド系殺虫剤は高温多湿な日本での稲作で発生する斑点米カメムシへの防除対策には欠かせない。農薬の技術開発に長年携わり、ミツバチの保護への研究も進める三井化学クロップ&ライフソリューションの江尻勝也氏は「ミツバチ被害が出た当初は水田内での被爆やイネ花粉経由での影響と考えられてきたが、調査研究によって主に畦畔雑草にラジコンヘリで飛散した薬剤がミツバチの体に付着し、巣箱内が汚染されて大量死が起こっていることが分かった」と解説する。 ネオニコチノイドは今までの防除剤の有機リン剤や合成ピレスロイド剤と異なり即効性でなく死亡まで数時間~半日ほどかかる。その〝潜伏期間〟に巣箱内で仲間のハチ達へ被害を広げたという。 多くの大規模養蜂家が夏を過ごす北海道の場合、斑点米カメムシ防除のためのラジコンヘリコプターによる散布は3~4回行われる。ラジコンヘリコプターを使うと水田外の畦畔にも農薬が飛散し、ミツバチの体に付着する可能性が出てくる。 しかし、北海道の稲作における斑点米カメムシ防除はネオニコチノイド系殺虫剤が有効な手段である。北海道では、(1)カメムシの発生源でもある牧草地が広大に広がっていること、(2)畔が高く畦畔雑草の管理が不十分であること、(3)道内主要水稲品種が斑点米カメムシの被害に遭いやすい、といったことからだ。 ミツバチへ被害を減らすためには、ミツバチに薬剤が付着しない粒剤の方がよいのだが、ラジコンヘリコプターによる散布の方が低コストである。カメムシによって生じる斑点米の除去も色彩選別機によって可能だが、大規模経営ではその時間的余裕がない。 江尻氏は様々な対策があるとしているが、そこへの課題も多い。 まず、JAからラジコンヘリコプター農薬散布日を知らせてもらい、養蜂家は水田近くに蜂場を設置しないようにする。ただ、大量の巣箱の移動やネットをかけてミツバチが出られなくすることは難しい。