政府、AIのリスク対策で法規制を検討 国の戦略として利用促進と両立目指す
同戦略はまた、「テクノロジーを社会実装し、社会課題の解決や新たな価値創造を進めるためには自然科学だけでなく、人文・社会科学も含めた『総合知』を活用することが重要」と指摘し、活用事例の周知やワークショップなどの開催を通じて「総合知」の重要性を普及啓発する、とした。
このほか、AIの活用と規制をはじめとして各分野で産学官を挙げて人材の育成・確保が急務であることを強く訴えているのも特徴だ。具体的には、10兆円規模の基金で世界水準の研究成果を目指す「国際卓越研究大学」制度での研究力強化や、地域の中核を担い、特色ある大学の支援や研究に打ち込める研究環境の実現などを打ち出している。
リスク対策も技術開発も急務
先進7カ国(G7)は昨年12月に「安全、安心、信頼できるAI」を世界に普及させることを目指した国際指針と行動規範に合意した。合意の背景にはAIが人間社会を変える過程で生じる負の側面への危機感があった。今年は国際指針に基づく各国個別の指針や規則にいかに実効性を持たせるかが問われている。
生成AIによる偽動画の悪用例は深刻だ。偽動画はロシアが侵攻したウクライナのほか、パレスチナ自治区ガザでも拡散した。今秋の米大統領選挙でも偽動画による混乱が危惧されている。著作権侵害や個人情報流出など、多様な弊害が増加している。対策や規制は国を問わず待ったなしだ。
政府が今回決めた法規制の本格的検討作業もこうした各国共通の危機感の高まりを受けてのことだ。規制色が強いEUの法規制や米国での規制の動きも見ながら日本独自の、かつ国際ルールに合った規制の在り方が問われ、作業を急ぐ必要がある。昨年広島で開かれたG7首脳会議で議長国日本はAIの活用と規制に関する「広島AIプロセス」の創設を主導して国際指針につなげた。AIのリスク対策での国際協力、国政連携でも先導することが期待されている。
国際的な規制の動きの一方、米国と中国、EUとの間のAIを巡る開発覇権競争は激しい。残念ながら日本は開発競争の先頭集団には入っていない。欧米や中国ではAI開発に大量の資金が流入し、技術の進化の速度が増している。今回の統合イノベーション戦略に盛り込まれた内容はどれも実行することが急務だが、日本の得意分野もある。AIを中心とした先端技術開発で日本独自の活路を見いだすことが求められている。
内城喜貴/科学ジャーナリスト、共同通信客員論説委員