政府、AIのリスク対策で法規制を検討 国の戦略として利用促進と両立目指す
医療や自動運転、金融などは社会への影響が大きい重要な分野のため、これらの規制内容は技術の進展や利用状況に応じて見直していく。具体的な安全策の検討のために「情報処理推進機構(IPA)」に2月に設置された「AIセーフティ・インスティテュート(AISI)」で先進的な技術的知見を集めるという。
AI戦略会議は規制を考える上で検討すべきAIのリスクとして、医療機器や自動車の誤作動、偽情報や誤情報による人権侵害や投資詐欺、AIの兵器転用などを挙げている。
背景にEUの規制法成立
政府がAIの法規制導入を本格的に検討することを決めた背景には、EUが世界に先駆けて包括的規制法づくりを進めたことがある。
欧州委員会はいち早く2021年にAIのリスクを「容認できない」から「最小限」まで4段階に分け、段階に応じて義務を課す規制法案を発表。その後生成AIの普及を受け、画像がAIで作成された場合にはそのことを明示することを義務付ける条項を追加した規制案も加わり、今年3月に欧州議会が法案を採択。5月21日にEU加盟国で構成する理事会が世界初の包括的なAI規制法案を承認し、同法が成立した。
この規制法は、EU内で活動する世界の企業を対象に2026年から適用し、違反した場合は制裁金を課す。欧州からの報道によると、その額は世界年間売上高の最大7%か最大3500万ユーロ(約59億円)のいずれか高い方だという。日本企業も対象になり、制裁金の額も大きいため、多くの日本企業関係者に少なからず動揺を与えた。
生成AIの影響は国境を越える。統合イノベーション戦略はEUの規制法による具体的な影響には言及していないが、「国際的な動向を踏まえつつ」との表現を何度か使い、「二国間・多国間の枠組みや連携を戦略的に活用する我が国の方針を産学官で共有、実行する」として利用促進だけでなく規制の分野でも国際連携の必要性を強調している。
核融合、量子技術、バイオ分野の研究支援強化
統合イノベーション戦略はAI以外では、核融合、量子技術、バイオテクノロジー分野を中心に研究支援や人材育成の一層の強化を進めるとしている。また、国内で人手不足が深刻化する中で「AI・ロボティクスによる自動化・省力化は急務で、技術の社会実装の加速が必要」と指摘。量子技術やロボット開発ではAIを積極的に活用し、分野を超えた統合的な技術開発を推し進める方針を明確にしている。