「福島12市町村」が舞台の異色ドラマ『風のふく島』。あえて「復興を直球で描く作品」にしなかった理由
福島の外と中の「温度差」をなくしたい
――でも、青野さんの作品もたぶん、ポジティブに転換する前の大元には怒りや悲しみがあるわけですよね。 青野P:感情の前にただの「なんで?」がいつもあります。うまく説明できないんですけど私の頭の中は「なんでなんで」だらけなんです。『姪のメイ』のときも、移住者の人たちはこんなに前向きで明るくて頑張って生きているんだな、なんでそれなのにまだ二次情報、三次情報で好き勝手言われているんだろうかとか。「かわいそう」なままが嫌とか、怒りまでいかないけど、どうにかしたいという気持ちだったのかもしれないです。 ――離れた場所からの勝手なイメージで福島を憐みの目で見ることは確かにありそうです。 青野P:実際に取材などでお話を伺って、温度差をすごく感じました。体験している人たちと、体験せずにいろいろ言う人とで、見ている景色が全然違うなと思います。 ――青野さんが『風のふく島』を通して伝えたい思いを改めてお聞かせ下さい。 青野:今回はキャストも監督も1話ごとに違いますが、唯一共通しているのが、オープニングとエンディングなんです。オープニングは和ぬかさんの『夢路(UNIVERSAL SIGMA)』 で、私が和ぬかさんにお願いしたのは「人生讃歌にしてほしい」ということ。ポジティブなことばかりじゃなく、苦境にあっても、それを乗り越えていくのが人生の美しいところだから、それを歌にしてほしい、と。 一方、エンディングは柴田聡子さんの『Passing』で、柴田さんには12人の1人1人の人生を愛で包み込むような歌にしてほしいとお願いしました。これは今回の作品全体のテーマでもあるんです。人生って、人間って、面白いよねといった気持ちは、私が12人の方に会って感じたことで、ドラマを観て下さる方も共感する面もあれば、しない面もあると思いますが、いろんな人の人生をぜひ楽しんでもらいたいなと思います。
田幸 和歌子(フリーランスライター)