「福島12市町村」が舞台の異色ドラマ『風のふく島』。あえて「復興を直球で描く作品」にしなかった理由
「思いつきで移住した」くらい軽やかでいい
――移住者の方々から話を聞いて、“アウェイ”だからこその良さと大変さについて感じることはありましたか。 青野P:やはりどちらもあると感じました。例えば、佐藤大樹さん主演の南相馬の第1話は、まさにその両面を描いた作品で。新しいことをしようとする人は煙たがられることもあるけど、そこに自分の信念を貫いて向き合おうとする話になっています。 ――実際に今、福島12市町村は新しいことを始めやすい土壌なのでしょうか。 青野P:そうですね。特に海側はまだまだお店も少ないし、出歩いて楽しむ場もほぼなくて。そういった意味では、自分で事業を立ち上げたい人には合っていると思います。 ――青野さん自身、ナイロン100℃などの演劇の制作に携わった後、音楽フェスの企画を経てテレビ東京のプロデューサーになり、現在は映像系の会社に所属しながらドラマ作品のプロデュースやそれ以外のことにも活動の幅を広げていて、ひとところに留まらずに常に新たなチャレンジをされているように見えます。本作の「移住者」たちに自身を重ねて見ていたところもあるのではないでしょうか。 青野P:それはあるかもしれないです。「思いつきで移住した」とか「深く考えずに移住しました」みたいな人もいて、それぐらい軽やかでいいのになと思うんですね。楽しいならいいですけど、心を殺して、会社のために頑張って、上司の機嫌を取ってみたいな人を見ると、「もういいじゃん、好きに生きなよ」みたいに思ってしまって(笑)。
社会派なテーマをストレートに描かなかった理由
――青野さんはいまもメインの仕事はドラマのプロデュースですが、実在の人物を取材してドキュメンタリーを作るのと、着想を得てドラマにするのにどんな違いを感じますか。 青野P:某著名アニメ監督が以前、ドキュメンタリーは本当だよと言いながら嘘をつくからムカつく、でも、ファンタジーは嘘ですよと言いながら、本当のことや本質的なことを伝えることができる、といった発言をしていました。私も全く同じ考えを持っていて、『風のふく島』の場合、それは「人生ってこういうところが楽しいし、美しいよね」みたいなこと。愛や勇気といった抽象的な概念。事実を切り取っていくよりも、ハートに訴えかけるほうに興味があるんだと思います。 ――ドキュメンタリーに比べて、テレビドラマは多数にリーチできることもメリットだと思いますが、日本の社会派ドラマの多くはウェットで、真面目で、メッセージがストレートですよね。でも、本作は回によってはファンタジーだったりコメディだったりする。日本人はブラックコメディや風刺に弱いとよく言われる中、青野さんがあえてそうした作風を選んでいるのはなぜですか。 青野P:実は今、『カリカチュア・カウンセラー』という漫画の原案を手掛けているんですが(12月30日から漫画アプリ「GANMA!」で配信)、それは「ダークコメディ」と謳っていて、編集者からは「ダークコメディと言うと読者のイメージが湧きづらい」と言われたばかりで……(苦笑)。 「社会派」って真面目だし、悲しいものをただ悲しく描いたものが多いじゃないですか。でも、それってひねりがないよなと思っちゃって。私は悲劇を喜劇に転換するのが人間の力だと思っているので、どんなこともポジティブに転換していきたいんです。意地でも(笑)。 ――青野さんが手掛けられた『直ちゃんは小学三年生(五年生)』や『姪のメイ』も、社会派ドラマの側面を持ちつつ、ブラックユーモアやファンタジー要素が強かったですよね。 青野P:そうですね。いわゆる「社会派ドラマ」って思想がはっきりしているから、「そうじゃない側の意見もあるはずなのにな」と思っちゃうんです。善悪二元論になってしまったり。それに、ただストレートな怒りや悲しみはキツイけど、そこにユーモアが入ったら、より向き合えることもあると思うんです。好みの問題だと思うんですけど、私は怒るより笑いたいんです。