「コンプライアンス」と言わない老人ホーム、そっちのほうが良心的? 入居者への訪問看護、「不正や過剰な報酬請求」指摘の一方で
有料老人ホームの難病や末期がんの入居者を対象にした訪問看護について、診療報酬の不正や過剰な請求が相次いで指摘されている。精神障害がある人向けの訪問看護でも同様の問題がある。ただ、適正に運営している事業者も当然いる。「不正や過剰な請求をしなくても、経営は十分可能。全てが悪いとは見ないでほしい」。そう訴える経営者を訪ねると、他の会社がよく言う「コンプライアンス」(法令順守)という言葉が一度も出なかった。そのほうが良心的な経営をしているとは、一体どういうことなのか。(共同通信=市川亨) 【写真】「介護ヘルパーはデリへルじゃない」 訪問介護先の男性からセクハラ…「娘さんに伝えたら、お父さまにひどく怒り、謝罪に来られました」。家族関係を壊しかねない状況になり、後味の悪い体験に 高齢者を加害者扱いしにくい現場の苦悩
▽複数人での訪問は1~2割だけ 「このホームでは入居者の外出を自由にしています。何を食べてもいい。お酒もOKです。『安全』ばかりを重視すると、その人らしさを奪ってしまうので」 大阪府堺市郊外にある有料老人ホーム「リュッケみいけ」。運営法人の代表理事、梶原崇志さん(42)がそう言ってホーム内を案内してくれた。 建物は定員30人の木造2階建て。「入居者が好きなように暮らしてほしい」と「医療介護併設型シェアハウス」とうたう。住民向けにカフェを併設し、地域の子どもが訪れてくれるよう駄菓子屋コーナーもある。 リュッケは難病や末期がんの人が対象で、みとりにも対応する。こうしたホームは「ホスピス型住宅」などと呼ばれ、高齢化や独居者の増加に伴い、各地で増えている。入居者向けに訪問看護と介護のステーションを併設し、医療と介護の報酬を得て運営する。 訪問看護は難病などの患者の場合、毎日3回まで診療報酬が得られ、看護師らが複数人でケアしたり、早朝・夜間に訪問したりすると、報酬が加算される。
「必要ないのに、報酬目当てに過剰な訪問をする」「虚偽の記録で不正に報酬を請求する」といった状況が複数の事業者で指摘されている。 複数人での訪問については、運営会社が100%を目標にする例や、約90%に達しているケースが明らかになっているが、梶原さんは「そんな割合になることはまずあり得ない」と断言する。 リュッケの入居者はパーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などで、他のホスピス型住宅とほぼ同じだ。「複数人での訪問が必要な人もいるが、1~2割。他の人は1人で十分です」と梶原さん。 ▽「十把ひとからげにしないで」 他のホームでは、入居者が眠っているのを看護師が1人で数十秒確認しただけで「複数人で約30分訪問」と偽って報酬を請求するケースが指摘されている。 「それはもちろんダメだが、夜間に訪問しているからといって、報酬目当てだと見ないでほしい」。梶原さんはそうも話す。リュッケの入居者の場合、1日3回や夜間の訪問自体は必要な人が多いという。例えばパーキンソン病は症状が進むと、夜間に薬の効果が切れ、体を動かせなくなるといったことがあるからだ。