「コンプライアンス」と言わない老人ホーム、そっちのほうが良心的? 入居者への訪問看護、「不正や過剰な報酬請求」指摘の一方で
リュッケの入居者1人当たりの訪問看護による収入額を聞くと、不正・過剰な報酬請求が指摘される会社に比べ3割ほど少ない。「大もうけはできないけど、ちゃんと利益は出ています」。梶原さんは苦笑交じりに話した。 リュッケで働く看護師に話を聞くと、「ここでは『利益のためだ』と感じることはない」と、納得した様子を見せる。 梶原さんはこう訴えた。「不正や過剰な訪問看護への対策として報酬を一律に下げられると、真面目に運営しているところまであおりを受ける。国は十把ひとからげにせず、対策を講じてほしい」 ▽「社会的責任のほうを大事に」 2時間ほど話を聞き、帰り際にあることに気付いた。梶原さんはホームの運営で心がけていることをいろいろ話してくれたが、「コンプライアンス」という言葉が全く出てこなかった。 過剰な報酬請求が指摘される会社は「法令を順守している」と強調する。過剰かどうかは判断が分かれるため、「必要だ」と言い張れば、違法性を問うのは難しい。「コンプライアンス」は「法令に違反はしていない」という意味のようにも聞こえる。
「コンプライアンス」という言葉を使わなかったことを梶原さんに指摘すると、こう言った。「それよりは社会的責任とか、『これはやっちゃいけない』という価値観をスタッフと共有することのほうを大事にしてますかね」 ▽医療保険の訪問看護、費用が急増 訪問看護は年齢や疾患などによって医療保険が適用される場合と、介護保険適用に分かれる。もともとは地域で患者宅を一軒一軒回る形が多かったが、近年は老人ホーム併設でホーム入居者だけを対象にする例や、精神科に特化した訪問看護ステーションが増えている。 難病や末期がん、精神障害などの場合は医療保険が適用され、介護保険よりも高めの診療報酬が得られるため、事業者が次々と参入しているという事情がある。 厚生労働省の統計を調べると、介護保険適用の訪問看護の費用は過去10年間で2.3倍。それに対し医療保険型は5.4倍と大幅に増えた。 高齢化のほか、入院患者の早期在宅復帰を促す政策に伴い、利用者数が4倍近く増えたことが主な理由だ。ただ、1人当たりの費用も1.4倍に増え、押し上げ要因になっている。