イーロン・マスクはなぜトランプに賭けるのか…踏み台?政界進出?それとも利益率でBYDの半分のテスラ生き残りのため?
マスク一家のネットワークを使って何を狙う
記事には、総勢53人がリストアップされる。家族と親族が10人、彼らを除く43人は、陰に陽にトランプの政策の策定、そして人事選考に関与する。たまたま記者が調査した時期が影響したのかもしれない。彼らはマスクの事業での代理人、選挙屋(集票組織の運営者)、ポドキャスター(ネット・ラジオの主催者)などに分類できる。 そんな中に、「やはり、そうだったか」と思わせる3人が浮かぶ。第一はリンダ・ヤッカリーノ。マスクが所有するソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)、X(旧・Twitter)の副社長だ。アメリカでおよそ1億人が利用するサービスの通信内容を、彼女は知ることができる。 だが確かにそれを実行したとは言えない。そんな証拠は存在しない。それでも、この地区では大統領候補のどちらが有利かぐらいは察知できるだろう。そうした情報が、マスクの政治活動の判断データとして使われた可能性は、誰もが想像するのではないだろうか。 新聞やテレビなどの旧メディアがハリス有利と伝える中で、実はSNSではトランプ有利だった可能性がある。そうした情報をもとにマスクは、いち早くハリスからトランプに乗り換えたのかもしれない。念のためだが、これはあくまでも仮想のお話だ。 第二はタッカー・カールソン。元フォックス・ニュースのキャスターで、2024年2月6 日のプーチンとのインタビューで世界を驚かした。最近はもっぱらマスクの応援で立ち回り、トランプ政権に喰いこんでいる。彼とプーチンを誰がどうやって繋げたかは謎だ。 第三はトム・チュー(朱暁彤)。中国出身でテスラの副社長。コロナの流行で上海が封鎖された中で、テスラの工場に立てこもり操業を続けさせた。中国首相の李強(前・上海市党書記=市のトップ)とはツーカーの仲だ。 このような異色で異能の人脈をたどると、あくまでも仮の話だが、ひとつの憶測を禁ずることができなくなってくる。 トランプ→マスク→チュー→カールソン→中露首脳といったルートが想定されるではないか。そうしたルートでメッセージが交わされ、ヨーロッパの頭越しに米中露の間で、ウクライナ戦争を一時休戦に持ち込む根回しが進められた、といった暴露がないとも限らない。 現に2024年11月6日、ウクライナのゼレンスキー大統領がフロリダの別荘へトランプ再選の祝いの電話をかけたとき、マスクが同席していたのだ。その際にマスクとゼレンスキーが話し合ったことが確認されている。マスクが同席した理由は何だったのか? 憶測はたくましくなるばかりだ。 もしトランプが豪語するように間もなくウクライナ停戦交渉が始まり、そしてもしその裏にマスクが動いていたとなれば、マスクはトランプ政権でさらに大きく幅を効かすことができるのである。 内政では予算削減。それだけでは貸しが足りないといけないので、外政ではウクライナ戦争の停戦、その根回しへの参画。マスクのめざとさはダブルなのだ。
赤木 昭夫(評論家)