簡単に白黒をつける社会に違和感、代理母がテーマの『燕は戻ってこない』プロデューサーが描く簡単には断罪できない人間の愚かさと欲望
29歳、手取り14万、派遣社員――。貧困に苦しむ主人公・理紀が、お金と安心を得るために、代理母となり、生殖機能を売る。そしてそれを買うのは、世界的バレエダンサーの有能な遺伝子を残したいと目論む、裕福な草桶夫婦。物語が進むにつれ、主人公が契約を破り複数の男性と関係を持つなど、ストーリーは混迷を極め、SNS上でも様々な議論を巻き起こしています。日本ではまだ認められていない「代理母」を巡るストーリーを描く話題作『燕は戻ってこない』(原作:桐野夏生)。プロデューサーの板垣麻衣子さんに制作の背景を聞きました。
生殖医療は万人に福音をもたらすのか
ードラマプロデューサーのお仕事はどんな内容なんでしょうか。 板垣麻衣子さん(以下、板垣):プロデューサーは全部を俯瞰する立場です。企画を立て、脚本を脚本家と一緒に作り、キャスティング、スタッフ集め、予算管理をして、撮影が始まれば現場にも顔を出すし、編集にも立ち会い、広報活動もするし、放送を出すところまで責任を持つ。全ての工程の品質管理の責任者という感じです。 ー作品のプロデューサーとして、今回こだわったところはありますか。 板垣:ドラマを作るときは人間をしっかり深く描きたいと、常々思っています。NHKで社会派ドラマやりますっていうと、堅苦しいものが始まると思われそうなんですけど、ポップさとか、ドライブ感も大事にしたいと思いました。ただただ面白いっていうだけじゃなく、観ている人を引き込ませる没入感、心がざわざわさせられるとか、そういうのも含めてエンタメだと思うんです。 ー今このときに、「代理母」をテーマにしたドラマを制作した意図はなんでしょうか。 板垣:2022年に原作の単行本が出てすぐ、読んでこれをドラマでやりたいなと思いました。 桐野夏生さんの作品には、人間臭い登場人物がいっぱい出てきます。女性の生きづらさとか、痛みっていうものを、怒りを持って書こうという姿勢をすごく感じます。 命って誰のものなんだろうとか、それはお金で売り買いできるものなんだろうかと、物事の善悪とか白黒を簡単に決めつけていいんだろうかとか、すごく普遍的なテーマだなと思いましたし、社会的な問題を、ものすごい物語の力でエンターテイメントに昇華させている小説だと思いました。 生殖医療の光と影、進歩と問題点というところはとっても今日的なテーマだなと思いました。現状日本では、第三者を介した代理出産は認められていないんですよね。だけど、そこに救いを求めている人もいると思うんです。プランテ(生殖医療エージェント)みたいな業者が、もしかしたら福音をもたらす存在なのかもしれない。でも、一方で人の弱みにつけこんで必要以上のお金儲けをしようとしているかもしれない。そこには計り知れなさがあります。 『燕は戻ってこない』 NHK総合 毎週火曜 よる10時 「命」はだれのもの?代理出産を巡る女たち男たちの欲望のドラマ! 派遣社員として暮らす大石理紀(石橋静河)は悩んでいる。職場の同僚から「卵子提供」をして金を稼ごうと誘われたのだ。生殖医療エージェント「プランテ」で面談を受ける理紀。そこで持ち掛けられたのは「卵子提供」ではなく「代理出産」だった。元バレエダンサーの草桶基(稲垣吾郎)とその妻、悠子(内田有紀)が、高額の謝礼と引き換えに二人の子を産んでくれる「代理母」を探していた―。