なぜヴィッセル神戸は語り継がれる“120分の死闘”を制して今季初勝利と2年ぶりのACL本戦出場権を獲得できたのか?
ペナルティーエリア内でこぼれ球を拾ったFWベン・フォラミに、ゴール右角の一番上に突き刺さるスーパーゴールを決められる。追いつかれた次の瞬間、イニエスタは握り締めた右拳を大きく振り降ろしながら珍しく感情を露にした。 むき出しになったのは怒りというより、絶対に負けてなるものか、という執念だった。延長戦へ臨む前にスタッフを含めた全員で組まれた円陣。鬼気迫る表情で檄を飛ばし続けたイニエスタが、延長前半5分にリンコンが決めた決勝点の起点になった。 左サイドからDF初瀬亮(24)が送った横パスを右足で前方へのスルーパスに変え、完璧に反応したMF汰木康也(26)が左足で中央へ折り返す。ペナルティーエリア内で繰り返されたワンタッチパスで、メルボルンの守備網は完全に崩壊した。 ノーマークでファーサイドへ飛び込み、最後は体勢を崩しながらも左足でゴールへ押し込んだ元U-20ブラジル代表FWリンコンが声を弾ませた。 「信じていた通りの最高のボールが来たので、あとはもう決めるだけでした。自分たちはここまで努力を重ねてきたので、今日、最大限の力を発揮できたと思う」 昨シーズンの明治安田生命J1リーグで、クラブ史上で最高位となる3位へ躍進。ACL東地区プレーオフの出場権を手にした神戸は、優勝候補に推す声もあったなかで臨んだ今シーズンで、クラブワースト記録を23年ぶりに更新してしまう。 開幕から3分け3敗と6戦連続で白星から見放され、リーグ戦で17位に低迷する状況で迎えた一発勝負のプレーオフ。前日14日にはSNSやインターネット上の掲示板における一部投稿に対して、神戸が注意喚起を行う緊急事態が生じていた。 期待が高かった分だけ大きくなった反動が、一部のファン・サポーターのなかで境界線を越え、誹謗中傷や侮辱など看過できない投稿を生み出した。状況次第では法的措置を取るとクラブが警告を発した状況に、選手たちも心を痛めていた。 自身が出場した4試合でノーゴールが続いていた大迫は、フラッシュインタビューの第一声で、メルボルン・ビクトリー戦をこう位置づけている。 「Jリーグの方でふがいない結果が続いていたので、チームがいい方向に向かうチャンスだと思って臨みました。結果が出てよかったと素直に思っています」 結果とは神戸の劇的勝利であり、大迫自身が決めた2つのゴールでもある。 1点のビハインドを背負って迎えた後半35分。初瀬が蹴った左コーナーキックを、ニアサイドでDF菊池流帆(25)が頭でそらした直後だった。オフサイドぎりぎりで飛び出した大迫が右足のワンタッチで合わせて、ゴールネットを揺らした。 7分後には右サイドでパスが交換され、相手守備陣がボールウォッチャーになったわずかな間隙を縫ってニアサイドへ侵入。ゴールライン際からMF山口蛍(31)が上げた低いクロスに、右足のインサイドを軽く触れさせて角度を変えた。 高度なテクニックを介して一時は再逆転するゴールを流し込んだ大迫は、同点弾の直後に続いて何度も雄叫びをあげ、普段はクールに映る仮面を自ら剥ぎ取った。 「僕らが持っているすべてを出し切ろうとチーム全体で話していたなかで、それを一発勝負のピッチの上で表現することができた。本当にこれをJリーグでも、この熱さというものをチームとして表現していけたらいいな、と思います」 メルボルン・ビクトリー戦を前に、イニエスタは「火曜日にはこの状況を変える唯一のチャンスがあります」と、インスタグラムへの投稿を介してチームメイト、スタッフ、チーム関係者、そしてファン・サポーターへ訴えかけていた。