ティモシー・シャラメそっくりさんコンテストは大混乱!
警官隊との小競り合いに発展した非公式イベントには、ティモシー・シャラメ本人も現れた。 【写真23枚】コンテスト会場に集結した“ティモシー・シャラメ”たち
「やあ、元気?」 ボディーガードを従えてマンハッタンのワシントン・スクエア・パークに到着した“ティミー”ことティモシー・シャラメは、広場の有名なローマ風アーチの下に集まった数百人の群衆を分け入った。彼が顔を覆っていたマスクを取り去ると、アドレナリンのたぎるような歓声が一帯に轟いた。 口髭を生やした彼は、スペンサー・デロレンゾ(22)に腕を回した。ヘーゼル色の瞳、角ばった骨格、顎まである茶色の巻き毛──。そのような容姿をしていることが、デロレンゾを今日この場所へと駆り立てた。ほんの数分前、デロレンゾは早速の本命候補として頭角を現し、友人の肩に乗って群衆の中を走り抜け、「我々のお姫様だ!」という喝采を浴びていた。 しかし、後でこのシュールな瞬間を振り返ったデロレンゾは、最初はこの男(本物のティモシー・シャラメ)もまたティミーのそっくりさんだと思い込んでいたと私に話した。実際のところ、私たち全員が、このとき一体何が起こっているのかしばらく理解できなかった。 ■警官隊を巻き込んだ混乱 「ティモシー・シャラメのそっくりさん大会」と銘打たれた非公式イベントが大混乱に発展していたのは、その15分ほど前のことだった。私たちが到着したのは午後1時少し前。9月下旬に街中に撒かれた、賞金50ドルを確約した宣伝チラシに記載された開始時刻であり、すでに騒然とした野次馬の群れがいた。 これらのポスターと、Partiful(パーティー招待アプリ)で公開されたイベントは、何千ものリポスト、様々な地方や世界のニュース報道、さらには『ニューヨーク・ポスト』紙による独占的な特集に発展していた。ジョシュ・サフディ監督による次回作『Marty Supreme(原題)』の撮影中、シャラメ本人がポスターの横を通り過ぎるスナップ写真まであった。 この晴れた日曜日の午後、ニューヨーク大学のキャンパスの大動脈であるワシントン・スクエア・パークに集った面々は皆、大勢のハンサムな人々(その大半が、モップのようにカールした黒髪を伸ばした、鼻筋の通った、頬骨の高い若い男性だ)が競うのを見るのが目的だった。 イベント全体を通して計画性はほとんど感じられなかったが、23歳の主催者であるアンソニー・ポー(「ギルバート」と名乗ることもある)というスタント好きの人気YouTuberは、この手のコンテストにはお決まりの記念品を用意していた。高さ1.8mあるピカピカのトロフィー、「最優秀ティム」に宛てられた巨大な50ドルの小切手、そして楽しいハロウィン・キャンディが詰まったブリーフケースだ。 マンハッタンのヘルズ・キッチンで育ち、ラガーディア高校を卒業し、コロンビア大学とニューヨーク大学の両方に在籍した後、俳優を志すために中退したシャラメは最近、市内の行く先々で騒ぎを起こしている。イベントまでの数週間、ファンは彼がこのイベントを見に来るのではないかと期待していた。公園では、もし実際にシャラメがイベントに現れたら、数千ドルをチャリティに寄付するというGoFundMeが作成されたという話も伝わってきた。 しかし、最初の騒ぎが起こったのは本物のシャラメが訪れる少し前だった。ニューヨーク市警のパトカーが数台、アーチの下でサイレンをかけ、赤と青のライトを点滅させながら止まったのだ。警官と市の公園局の制服を着た警備隊員たちが広場を通り抜け、許可なく集まった群衆に解散するよう叫んだ。突然、私が立っていた場所から数センチ離れたところで、警官がティミー似のひとりの手首を掴んだ。ふたりは数メートル揉み合いになり、私はその中に押し込まれた。 「俺を拘束するのか? 俺を拘束するのか?」。そっくりさんは警官に何度も繰り返した。その後、その若者は自分の携帯電話で口論を録音しながら、警官に罪状を説明するよう要求していたようだった。群衆は彼らを取り囲み、「ティミーを解放しろ!」「彼を離せ!」「これはファシズムだ!」と叫んだ。AP通信のライブストリームで流れた映像によると、そっくりさんは最終的に手錠をかけられたまま市警によって公園から連れ出され、パトカーに乗せられていった。ポーはコンテストの主催者として、無許可のイベントを開催したとして500ドルの罰金を受けた。 ■十人十色の“ティモシー・シャラメ”たち 本物のシャラメは、ボディーガードが彼を待機している車に押し込むまで、1分もその場にいなかったように感じられた。しかもその時点で、出場者が具体的な点(髪型)と抽象的な点(セックスアピール)の両方で審査されるそっくりさんコンテストは、近くのマーサー・プレイグラウンドに移動していた。つまり、イベントの主催者はシャラメ本人を目にすることが叶わなかったのである。 シャラメが去った後も、ワシントン・スクエアに集った人々はそこに留まり続けた。アーチの下で私は、ロウアー・イースト・サイドに住むノアという23歳の青年を見つけた。群衆の中でカメラに向かってポーズをとっている彼は、まったく緊張している様子がなかった。彼にこの日のコンテストに参加した理由を尋ねると、ジミー・アンジェロフ(映画『プラクティカル・マジック』に登場する悪役)のような挑発的な表情を終始浮かべて答えた。 「正直、自分の仲間を作りたいだけなんです」と、彼はもったいぶって言う。「この力強さといったら。黒髪で痩せた白人のキッズが歩いているだけなのに」。彼はその光景が「絶対に」いかれたものになると予想していた。「ワシントン・スクエア・パークはいつだってそうですからね」。結局、彼がこのコンテストのことを知ったのは、「みんなとそのママが情報を送ってくれたから」という理由だけだった。 その近くにいた16歳のフィンは、文字通り友人の母親からコンテストのことを聞いた。彼女が彼に参加すべきだと言ったのは、その前の晩のことだった。「それで来ました」と、彼は言う。「だって、日曜の午後をほかにどう過ごせば?」。私との会話の数分前、彼はモデル事務所から名刺を手渡されたばかりだった。 「人が逮捕されるとは思っていませんでしたが、そうなりましたね」と、彼は言う。「男はもう、警察に連行されることなく、有名人のようななりで公園をぶらつくことさえできないというわけです」 近くに立っていたフィンの友人は、「警官対トゥインク(優男)の大乱闘になるところだった」と冗談を言った。 ローレン・ブロダウフ(25)は、彼女自身シャラメのようなシャープな顔立ちを持つ俳優だが、今日はコンペへの参加のためではなく、制作のためにここに来たという。米版『GQ』の2023年10月号を手に、友人と一緒にこのコンテストが重要な役割を果たす寸劇を撮影しているのだ。 「物語のプロットは、ある日目が覚めたら、ボーイフレンドがベッドからいなくなっていた、というもの。ボーイフレンドはティモシー・シャラメ、本物のティモシー・シャラメです」と、ブロダウフは説明する。「彼を求めて街中を探し回るのですが、最終的にここに辿り着き、そっくりさんのひとりと帰る。ティモシーが見つけられないから、彼がティモシーの代わりになるんです。それをフランスのヌーヴェルヴァーグ映画のような形にやりたいと思っています」 私たちはマーサー・プレイグラウンドに歩いて行ったが、そこでは紫色のウィリー・ウォンカの衣装を着たスタテン島在住の21歳、マイルズ・ミッチェルがそっくりさんコンテストの優勝者に輝いたところだった。NJトランジットに乗って市内に入り、午後1時ちょうどにワシントン・スクエア・パークに到着した彼は、あっという間に混沌の渦に巻き込まれた。ミッチェルは少々圧倒されているようだが、すでに母親に電話で朗報を伝えていた。「勝つとわかっていたと母は言っていました」と、彼は話した。 マーサー・プレイグランドにいたそれよりも小さな群衆の中に、私は再びデロレンゾを見つけた。奇しくもその日最大のご褒美(本物のシャラメからの片腕のハグと存在の認知)を獲得してしまった彼だったが、それでも現金を持ち帰れなかったことにかなりがっかりしていた。 「彼が優勝するべきでした」と、デロレンゾの友人ジェイク・タネンバウムは言う。 「私が勝つべきでした」と、デロレンゾも笑いながら同意する(彼は主に「人々に知ってほしいのは、私が職なしだということ。仕事ができたらいいな」ということを言っていた。これを読んでいる人に、彼が仕事を探しているということを伝えておこう)。 「なんて日だろう、人生で最も楽しい日だ」と、彼は言う。「ティモシーに会ったなんて。会えるなんて思わなかったのに! 私はあまり有名人に憧れたりしないんです。最初は彼もそっくりさんのひとりだと思って、『うわあ、本当にそっくりだ』なんて言っていたんですが、すぐに気づきました。『なんてこった、“彼”じゃないか!』とね」 From GQ.COM By Eileen Cartter Translated and Adapted by Yuzuru Todayama