なぜ静岡県はリニア着工に反対するのか? 透けて見えるJR東海への怨念
手痛い地元軽視のしっぺ返し
静岡県がJR東海に不満を抱くのは、(1)のぞみが止まらない(2)新駅をつくらない(3)リニアも素通り――という三つの「静岡飛ばし」だけが理由ではない。JR東海が地元との信頼関係を長年かけてつくってこなかった、という背景もある。鉄道関係に詳しいある記者に言わせれば、JR東海は「観光列車を走らせて地域振興を図るとか、地元自治体と一緒になった営業努力をしようとしない会社として、業界では有名」という。 この記者が話している趣旨は、子ども向けの鉄道図鑑を開いてみても容易に想像がつく。観光に力を入れているJR九州は当然として、JR東日本や西日本、北海道のページには、色とりどりの特急列車や観光列車の写真が掲載されているのに、JR東海のそれは、東海道新幹線や、見た目が基本的に同じ「ワイドビューひだ」や「ワイドビュー伊那路」などの特急列車くらいで、視覚的にも明らかに寂しい。 そんなJR東海が昨年、県とタイアップした観光企画「静岡デスティネーションキャンペーン」への参加を始めた。JR東海が自治体と観光キャンペーンを張るのは珍しいとされる。関係者の間では、リニアを巡る地元対策として、JR東海がようやく重い腰を上げたのでは、とささやかれた。
「ぜひ、富士山一周をやってもらいたい」。6月26日のトップ会談で、川勝知事が持論の観光ルートを金子社長に提案した。「東京から20分で甲府に着く。南アルプスや富士山、八ケ岳などがあるワンダーランドだ。そこから世界最速とは真逆の身延線特急で静岡まで来て、新幹線で帰るのは観光になる」とぶった。一度ならずあった発言に金子社長は困惑の表情を浮かべ、県外から駆けつけた報道陣の中には、あっけに取られた様子を見せる記者もいた。一見、突拍子もないこの発言も、過去の経緯をひもとけば、地元を顧みずリニアの工事に邁進するJR東海を当てこすった発言として理解できなくもない。 前出の記者は、一連のJR東海の地元対策をこう揶揄する。「静岡からすれば、JR東海は地元にのぞみを止めない東海道新幹線で大儲けしている。その上、その金でリニアをつくって、また駅をつくらない。リニアは水の不安だけあって、何の恩恵もない。JR東海は静岡のことはどうでもいいのか、という強い不満がある。観光列車を走らせるとか、『地元を大切にしてます』という姿勢をもっと前から示しておけば、リニアの静岡問題はこんなにこじれていなかったはずだ」 リニアの開業延期は、JR東海の地元軽視に対する静岡県の強烈なしっぺ返しとも言える。静岡にくすぶるJR東海への怨念は、リニアにどのような影を落とすのか。静岡問題の先行きは全く見えない。