中国が迫る尖閣諸島 日中衝突はあるのか?元陸将と台湾の研究者が語る懸念
「尖閣対処では、中国軍の戦力が圧倒的になった今日、国際的に連携した抑止が必要です。その取り組みの一つが日米の外相・防衛相による『2+2』会談であり、日米にインドとオーストラリアを加えた4カ国による国際的な枠組みである『クアッド(Quad)』です。こうした複数国との連携の中で、中国が『これ以上尖閣に圧力はかけられないな』という状況を作り出すことが重要です」 「いまの中国は1930年代の日本を連想させます。日本は第1次大戦後、国際協調を無視して国際連盟を脱退。そして経済制裁など国際的な包囲網を敷かれ、追い込まれて暴走しました。今の中国はそれに似ています。暴走させないことも大切です」 「国際的な中国包囲網を敷く以外にも、大事なことがあります。われわれの立ち向かう相手を中国全体ではなく、『習近平指導部』にして、中国人民も共産党も敵にせず、中国内部で争わせる方向にすべきです。『悪いのは習近平』として国内で変革を促すことが重要だと思います」
1968年、国連アジア極東経済委員会(ECAFE)が尖閣沖の海底資源を調査し、1095億バレルもの豊富な原油資源があると翌年に報告した。中国が尖閣諸島の領有権を主張し始めたのは、それ以降のことだ。だが、当時の日本は中国との間で「棚上げ」にしてしまった。状況が大きく動いたのが、2012年に石原慎太郎都知事(当時)が尖閣諸島を都で購入すると表明してからだ。慌てた当時の民主党政権は、3島を20億5千万円で購入し国有化してしまう。これに中国政府は猛反発。以後、尖閣海域に公船を出し、領海侵犯を繰り返した。こうした事態に対し、日本が武力衝突ばかりを懸念しているのは十分ではないと指摘する声もある。
すでに「現状変更」は行われている
■林泉忠(りん・せんちゅう)・元台湾中央研究院近代史研究所副研究員 「尖閣諸島はすでに『現状変更』がなされつつある──私はそう認識しています。もちろん尖閣に中国軍は駐留していないし、島への上陸もしていない。でも、広義では変更されていると思います」 「キーワードは『サラミ戦術』です。サラミソーセージを薄くスライスして切っていくように、少しずつ現状を変えていき、当初の目的を達成する戦術です。中国の公船が頻繁に尖閣の接続水域を航行するようになったのは2012年9月の日本の『国有化』措置以降です。一昨年は年間200日を超え、昨年は333日。公船が来るのが常態化したのです。これは日本にとって『本来の状態』ではありません」 「加えて、昨年は中国公船が領海内の日本漁船を追尾するという動きが5~12月の間で8件もあった。この時点で『新しい段階』に入ったと思いました。今までは日本の漁船が来ても基本的にノータッチだったのが、昨年から中国の公船が明白に日本の民間漁船の活動をやめさせるようになった。これは重要な変化です。つまり、中国は『パトロールの常態化』から、『尖閣海域の管理』の方向に動き始めたわけです。日本側は中国の島占領の可能性ばかりに注目し、この静かな変化をしっかりと認識していないように見えます」