中国が迫る尖閣諸島 日中衝突はあるのか?元陸将と台湾の研究者が語る懸念
林泉忠氏は台湾をはじめ、東アジアに詳しい国際政治学者だ。進学した東京大学大学院法学政治学研究科では藤原帰一教授や田中明彦教授に師事し、東アジア情勢を研究。2002年から琉球大学准教授、2012年からは台湾の中央研究院近代史研究所で副研究員。現在は東アジアを中心に研究の場を広げている。そんな林氏から見ると、尖閣をめぐる状況はすでに「現状変更」の途上にあるという。
王毅外相発言の真意は「共同管理」
「象徴的な場面が昨年11月の王毅外相の来日時にありました。外相は11月25日に菅義偉首相と会談を行った後、記者団に対し、尖閣諸島周辺海域に日中双方の公船以外の船舶を入れないことで事態の改善を図ることを日本に提案しました。日本のメディアはあまり注目しませんでしたが、この発言の意味は非常に大きい。日本の民間漁船は尖閣水域に来るなということは、海警局の船が来ることを日本側に認めさせたいという発言で、これは明らかな変化です」
「今後中国が目指すのは『尖閣の日中共同管理』です。共同管理とは、尖閣の領海に公船が自由に入っていき、漁船が勝手に入ってきた場合には排除できる状況。そうなって初めて本当の管理の状態となります。これが2020年から進行しているのです」 「日本は中国の戦略を読み違えている、と私は以前から指摘してきました。日本は中国が尖閣諸島を武力で占領することばかりを警戒してきたが、実際にはサラミ戦術が進行した。私の見立てでは、中国はもともと武力占領を目標としていません。なぜならコストが高すぎるからです」 「日本の海上保安庁も力を増強させてきました。与那国島、宮古島、奄美大島といった南西諸島では自衛隊が駐留し、軍事施設の設置もしてきた。さらに、沖縄には日米安保に基づく駐留米軍が膨大に配備されている。これらを無視して中国が尖閣を武力占領しようとすれば、新しい日中戦争、あるいはアメリカも巻き込んでの第3次世界大戦にも発展しかねません。この無人の小さな島をめぐって、中国がそこまでのリスクを冒すことはあり得ません」