中国が迫る尖閣諸島 日中衝突はあるのか?元陸将と台湾の研究者が語る懸念
「その過程で、中国は沿岸警備隊にあたる海警局を武警(人民武装警察部隊)に編入して、中央軍事委員会の下に置きました。日本で言えば、海上保安庁を海上自衛隊の指揮下にする大きな変更です。日本では海警法の武器使用ばかりが注目されますが、中国が昨年行った二つの関連法改正にも注意すべきです」 「2020年6月に人民武装警察法(武警法)、12月に中国国防法を改正しました。武警法2条には『武警は中央軍事委員会の集中統一指導を受ける』、4条の任務に『海洋権益擁護法執行、防衛作戦ならびに中央軍事委員会が付与するその他の任務』とあり、国防法でも22条に同様のことが記載された。つまり、海警局は中央軍事委員会の指揮下にあり、軍と同じ任務を負うことができるのです。海警局の公船は2012年に40隻(1000トン級以上)でしたが、いまは130隻。対して、海保の巡視船は66隻です。それだけ海上警備能力を強化して、尖閣に押し寄せているのが現状です」
海上民兵が上陸してくるシナリオ
「日中が衝突するシナリオを想定してみました。まず、中国側は先制攻撃ではなく、日本側に先に撃たせる仕掛けをしてくるでしょう。『われわれは撃たれた』という口実が必要だからです」 「例えば、中国の漁民が尖閣に上陸するケース。中国は『あれは遭難した漁民だ』と主張するでしょうが、実は海上民兵です。上陸してもめている時に海上保安庁が威嚇発砲したら、『自国の漁民を守るため』と主張して、中国の公船が海上保安庁へ発砲し返す。こうして両国の船で被害が出る。その時、中国は『わが国の領域において日本が不法行為をした』として、海軍の駆逐艦が尖閣沖に進出してくる。すると、今度は同じように海上自衛隊も出てきて、全面衝突に発展していく──これが一つのシナリオです」
「もっと悪いシナリオもあります。中国が不意急襲的に部隊を尖閣に上陸させてくるケースです。たとえば、上陸部隊を排除しようとする日本の自衛隊と中国軍が尖閣沖で戦闘を行う。すると、被害は双方に及ぶ」 「その時、日本はアメリカが適用を明言している日米安保条約の発動を要請する。しかし、中国も『米軍基地のある嘉手納、岩国などは攻撃しない』と発表。尖閣という戦略的価値の低い小さな島だけが対象だとなると、アメリカは発動を躊躇し、場合によっては発動自体を拒否する可能性もある。そうなると日本は孤立します。その間に、中国軍が尖閣に施設を構築し、既成事実化するというのが最悪のケースです。だから、アメリカに対しては日米の共同対処の必要性を理解してもらわなければなりません」