病状が進行すれば長い距離を歩けなくなる場合も。「末梢動脈疾患」の意外なサインは|医師が解説
腕や足のように心臓からやや離れているところまで血液を運ぶ血管を「末梢動脈」といいます。とくに足先の「末梢動脈疾患」では病状が進行すれば長い距離を歩けなくなる場合も。医師が解説します。 〈写真〉病状が進行すれば長い距離を歩けなくなる場合も。「末梢動脈疾患」の意外なサインは ■「末梢動脈疾患」とは、どのような病気なのか? 末梢動脈疾患の種類には、閉塞性動脈硬化症などが含まれています。 動脈硬化による狭窄や閉塞の変化は、全身の動脈に起こる可能性があり、脳の動脈が狭窄・閉塞すると一過性脳虚血発作や脳梗塞を起こし、心臓の冠動脈が狭窄・閉塞すると狭心症や心筋梗塞を起こします。 そして、手や足の動脈が狭窄・閉塞して栄養や酸素を十分に送り届けることができなくなると、手先や足先が冷たくなる、筋肉の痛みが出現する病気を、閉塞性動脈硬化症と呼んでいます。 閉塞性動脈硬化症の原因である動脈硬化は、コレステロールなどの成分が動脈の内部に付着する、あるいは高血圧や喫煙などで常に血管に負担がかかってしまうことで引き起こされます。 閉塞性動脈硬化症の症状は4つの段階に分類することができて、動脈硬化の狭窄や閉塞が悪化すると、症状が段階的に進行します。 ■■I~II度 重症度別に、I度では、足の冷感やしびれ感が出現し、II度では間欠性跛行(かんけつせいはこう)になって、しばらく歩くとふくらはぎなどが締めつけられるように痛くなり歩けなくなりますが、休憩すると痛みが無くなって再び歩けるようになります。血管の狭窄や閉塞が悪化すると、次第に歩ける距離が短くなります。 ■■III度 さらに病状が進行して、III度になれば、安静時痛に伴って歩かずに安静にしていても痛みが続くことがあります。 ■■IV度 IV度の状態では、足の潰瘍や壊死性変化が認められ、皮膚や筋肉の血流が不足して、小さな傷や低温やけどなどをきっかけに、皮膚に潰瘍や壊死を起こして、細菌感染を伴って治癒が難しくなります。 末梢動脈疾患の治療には、禁煙、運動、繊維質が多く、コレステロールや脂肪やナトリウムの少ない食習慣などの生活様式の変化が含まれ、これらの生活様式は初期症状の改善と予防に必要です。 薬物治療には、スタチンと呼ばれるコレステロールを下げる薬、血圧と血糖抑制薬、血栓を防ぐ薬などがあります。 重度の痛みがあり、歩行中に問題が深刻な場合は、外科的手術が必要になることがあります。 ■「末梢動脈疾患」の意外なサイン 腕や足のように心臓からやや離れているところまで酸素が含まれている血液を供給する血管を末梢動脈といいます。 末梢動脈疾患は、この末梢動脈が狭くなり、腕や足への血流を減少させ、血液供給がスムーズにならなくなることで、閉塞部位より末梢の組織が損傷や壊死する可能性があります。 末梢動脈疾患は、動脈壁に脂肪、コレステロールを含む沈殿物(プラーク)が蓄積して発生します。 この過程をアテローム性動脈硬化症といい、末梢動脈疾患の最も代表的な原因です。 脂質異常症や高血圧、糖尿病があると発症リスクが増加し、特に喫煙者は非喫煙者に比べて末梢動脈疾患が発生するリスクを40%増加させるという研究報告があります。 末梢動脈疾患のある人の半分程度は、症状が軽微であるかまったくありません。 「末梢動脈疾患」を疑う意外なサインとして、症状のある一部の方は、足に向かう末梢動脈が狭くなった場合、歩くと足の痛み(跛行)を経験します。 この足の痛みは、足がつったように引っ張られて痛くて動きにくく、皮膚の発赤や脚の皮膚の色が変化することもあります。 特に、夜に横たわっているとき、足とつま先が火照って、チクチクするような痛みが現れる場合もあります。 健康的な生活習慣は、末梢動脈疾患の症状を管理し悪化するのを防ぐことができます。 健康的な生活習慣には、動脈硬化性変化を助長するタバコを吸わないこと、血糖と血圧とコレステロールの管理、飽和脂肪の少ない食物摂取などが含まれます。 特に、日々の運動は末梢動脈疾患の予防と適正体重維持のためにも重要なので、ウォーキングを含む適切な運動を実践するようにしましょう。 ■まとめ 全身の血管において、特に手や足の領域に血液を運ぶ役割を有している動脈を「末梢動脈」と呼んでいて、動脈硬化という病態は身体中のどこの血管でも起こりえる状態であり、足も決して例外ではありません。 足の動脈硬化性変化によって引き起こされる末梢動脈疾患とは、足領域に血流を栄養する血管自体に動脈硬化が起こって血管が細くなる、あるいは詰まることで足先に十分な血液が配給されなくなることで発症する病気であると考えられています。 「末梢動脈疾患」の意外なサインとして、初期段階では歩行時に足がしびれる、痛い、冷たいなどの自覚症状が出現します。 病状が進行すれば長い距離を歩けなくなる間欠性跛行を呈する、あるいは運動時のみならず安静にしていても足の患部に疼痛症状を覚えることになりますし、病勢が悪化すると、足部に潰瘍性病変が形成され、最悪の場合には足を切断しなければならない場合もあります。 心配であれば、循環器内科など専門医療機関を受診して相談しましょう。 今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。 文/甲斐沼孟(医師)
甲斐沼 孟