セクハラや性加害が“お酒のせい”では絶対に許されない理由。「アルコールで性欲は高まらない」
アルコールで性欲が高まるわけではない
ひどい話ですが、お酒に酔って前後不覚になった女性をホテルに連れ込んだり、睡眠薬などの薬をお酒に混ぜて相手の意識をもうろうとさせたり、抵抗できない状態にしてセックスをする……といった卑劣な事件もあります。当然ながらこういった行為は、性的同意を取っているとは言えず、内閣府のホームページでも「相手が抵抗できない状態で、性交やわいせつな行為を行うことは、性別を問わず刑法の処罰の対象となり得ます」と明言されています。ここに「性別を問わず」とあるように、こうしたセクハラやアルハラは、男性から女性に行われるものだけでなく、女性から男性はもちろん、同性同士のケースもあります。 女性上司が部下の男性に「男のくせにお酒が弱いなんて、将来出世しないわよ!」とアルコールを強要したり、男性上司が部下の男性に「筋肉すごいね~」などと言って二の腕や胸をなで回す……などです。ときに当の本人はセクハラをしているという意識がないパターンも少なくありません。 では、このようなセクハラや性加害がお酒の席で起こりやすいのは、「アルコールで性欲が高まったから」なのでしょうか。答えはNOです。人間のからだで性欲を司るのは、男性ホルモンのテストステロンです。たしかに、少量のアルコールでテストステロンの値が上がるという報告もあります。ですが、それだけでセクハラや性加害を抑えきれないほど性欲が高まるとは言えませんし、過度な飲酒は、むしろテストステロンに悪影響を与えます。
お酒の席でセクハラが起きてしまう理由
――お酒で性欲が高まらないとすると、なぜお酒の場でセクハラが起こりやすいのでしょうか? 富永:結論から述べると、お酒を飲んでセクハラや性的な行為に走るのは、テストステロンの値が高まったからではなく、脳の前頭葉の働きが鈍くなったからです。 この「前頭葉」という部分は、おもに認知機能を司り、感情をコントロールする、いわば「感情のブレーキ役」です。しかし、アルコールが入るとこの前頭葉の働きが鈍くなってしまい、感情が制御不能に陥ってしまうのです。たとえば、職場で若い女性が前日と同じ洋服を着て出社したとします。そのとき、「あ、さては恋人の家に泊まって、そのまま出社したのかな」と内心思っても、シラフなら「さすがにこれはセクハラになるから言わないほうがいいだろう」と思いとどまるものです。しかし、アルコールが入ると、前頭葉によるブレーキが利かなくなっているため、「昨日、いいことあったでしょう?」「彼氏と順調なの?」といったセクハラ発言をしてしまうのです。「アルコールを飲むことで、ストレスやプレッシャーから解放される」という人もいます。しかし、実際はストレスやプレッシャーがアルコールで霧散したわけでなく、アルコールによって感覚が麻痺し、感じにくくなっているだけです。 日本のお酒や酔っぱらいに対する寛容さは、世界でも屈指と言われています。海外では、ビーチでの飲酒が禁止されている国や地域も多いですが、日本では「海の家」でお酒を売っているのは当たり前。また、自動販売機で自由にお酒を買えることに驚く海外からの観光客も多いと言います。 このような「酔っ払いに甘い」文化土壌で育ってきた私たちは、たとえセクハラやアルハラが目の前で起こったとしても、「お酒の席だから」と穏便に済まそうとしてしまいがちです。しかし、これはアルコールによるハラスメントや性加害の被害を矮小化する「二次加害」につながります。 そもそも「お酒のせい」で別人になったり、性欲が急激に高まるのではありません。感情のブレーキがゆるみ、その人の持っている「本性」が表に出てくるだけです。「結構、飲んでいたから許してあげて」ではなく、普段はどんなに立派に振る舞っていても、飲んで本性を現した姿こそ、その人そのものなのです。