「半数以上は小説だと思ったのに」女優・南沢奈央が“2024年に読んだ100冊”を振り返ってみて、わかったこと
半年間の新聞連載も無事に終わり、年の終わりも見えてきた最近は、毎日舞台の公演に燃えている。今年は大晦日まで東京での公演が続く。今までにない年末年始になりそうで、わくわくしている。 日々上がっていく高揚感の中で、家に帰ってきてこたつに入り、ホッと一息つく。そうして、大好きな雪見だいふくと共に味わうのが、『雪のうた』だ。100人の歌人による100首の〈雪〉の短歌アンソロジーである。 左右社から出ている短歌アンソロジーシリーズ、実は『海のうた』、『月のうた』に続き、第3弾となる。季節ごとにもちろん全て楽しませてもらっているのだが、どれも本当に素敵な装幀で惚れ惚れしてしまう。表紙の紙質なんか相当こだわって作られている。今回の『雪のうた』も持ったときの手触りでまず、雪を感じる。本として、作品として、とても愛おしい存在だ。 雪は、東京に住む人間からしたら、出会えるか出会えないか分からない、特別なものだ。だから降ったら、とてもうれしい気持ちになる。大変なのは分かっているが、積もってほしい、とすら思ってしまう。でも日常的に雪があると、もっと特別な雪を見ることができるのかもしれない。 〈東京の人は知らないだろうけれど雪はときどきひかるよ、青く〉 盛岡在住のくどうれいんさんの一首。青く光る雪……それはそれは綺麗だろう。「東京の人は知らないだろうけれど」というのが良い。東京にいれば何でもできる、何でも見られるとよく思われるけれど、こうした自然に関することは、どうしたってできないことがある。雪国だからこそ見ることのできる、美しい景色。そういったものを知るために、来年はたくさん旅に出られたらいいなと思うのだ。 エッセイで楽しませてもらった穂村さんの歌もやはり魅力的。 〈体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ〉 情景が浮かぶ。“雪のことかよ”という軽やかなツッコミから想像するに、夫婦だろうか。熱を出してしまった奥さんが体温をはかり、窓で額を冷やしながら、雪が降り始めたのを発見。口に体温計をくわえているから、「雪だ」が「ゆひら」とおかしな発音になってしまう。とても可愛らしい。そして二人で笑いながら雪を眺めるのだろうなと思うと、とても微笑ましく、あたたかい。 微笑ましい二人が見えてくるというと、こちらも。 〈外に降る雪の様子をみてるからあなたは鍋の様子をみてて〉 こういったアンソロジーの歌集で好きだなぁと作者の名前を見ると、岡本真帆さんの短歌であるということが多い。一緒に雪を見るではなく、鍋を〈あなた〉に任せて、自分だけ見に行く無邪気さが可愛い。こう言われたら、仕方ないなぁと相好を崩してしまう。 短歌はたった31音から、ばぁっと情景が現れて、さらに言うと物語すらも見えてくるからおもしろい。一首だけで、一晩中こたつで想像が止まらなくなりそうだ。 だからこの本は一冊だけれど、100首=100の物語に出会うことができる。あらゆる雪に出会い、これからもっと寒くなることも楽しみになってきた。
『雪国』から始まって、『雪のうた』で終わる2024年の読書。本から受け取ったたくさんのものが溶けてなくならないように、わたしはこうして言葉に変えて残していく。 来年も、良き本と出会えように。良いお年を。
新潮社