クルマ好き大好物のブレーキパーツ「モノブロックキャリパー」ってなんだ? 値段「バカ高」でも使うメリットとは
レーシングカーも採用しているモノブロックキャリパー
クルマ好きにとって、「鍛造」「削りだし」といったフレーズはキラーワードになっているが、そこから連想されるパーツのひとつに、「モノブロックキャリパー」がある。 【写真】ブレーキのB? バックのB? シフトレバーにある「B」の意味とは モノブロックキャリパーとは、ハイパフォーマンスカーに採用されるブレーキキャリパーのこと。「モノ」とはモノコックボディの「モノ」と同じく、「ひとつ」「単一」という意味。 一般的な対向キャリパーは、ブレーキローターを間に挟む形で、キャリパー本体が左右ふたつの分割された構造になっていて、それをボルトで結合してひとつのキャリパーとして使っている。 それに対し、モノブロックキャリパーは、その名のとおり「ひとつの塊」。つまり、大きなアルミブロックを削り出して、非分割状態でひとつのキャリパーに仕上げたものになっている。 当然、加工の手間やコストでいえば、分割タイプの2ピースキャリパーに分があるが、なぜモノブロックキャリパーが生まれたのか? それはストッピングパワーの強い、大きなキャリパーほど、そのピストンを動かす油圧も強大で、ピストンを押し出そうとすると、作用・反作用の法則が働き、ピストンを動かす力と同等の力が、反対側=キャリパー側へも作用するため。 つまり、強くピストンを押し出そうとすればするほど、キャリパー本体をローターから遠ざけようとする逆向きの力が働くということ。
軽くて剛性のあるキャリパーだがコストの高さがネック
前述のように通常のキャリパー=2ピースキャリパーは、「たい焼」のように両サイドから貼り合わせて、ボルトで結合させているだけ。そのために強い油圧がかかると、キャリパーが広がろうとして、ピストンを押す力が逃げてしまう。 モノブロックにすれば、もともと一体なので剛性は非常に高く、ハードブレーキでもキャリパー本体の広がりや変形を抑えられ、ブレーキペダルを踏みこんだときのタッチやリリース時のフィーリングが良好になる。コスト度外視のレーシングカーからモノブロックキャリパーを採用するマシンが増えてきた。 ただし、キャリパーの剛性だけの問題でいえば、アルミモノブロックキャリパーよりも、安価なスチール製キャリパーのほうが有利だ。ごつく作れば2ピースキャリパーだって十分な剛性は出せるが、どちらも重くなってしまう。ブレーキ=バネ下重量の増加は、タイヤの接地性にも大きく影響するので、ブレーキの容量と剛性はほしいが、大きくて重たいキャリパーはデメリットしかない。 そこで、軽くて剛性のあるキャリパーを追求していった結果として生まれたのが、モノブロックキャリパーというわけだ。 そうしたモノブロックキャリパーの利点とトレードオフになったのは、ずばりコスト。大きなアルミブロックから削り出して作るので、まず材料費が高くなる。そしてピストンホールや油圧経路を切削加工していくためには、特殊なマシニングセンタ(自動工具交換装置を備えた工作機械)が必要。部材が高くて、工作機械が高価で、量産性に難があれば、出来上がった製品は当然高コストになってしまう。 たとえば、トヨタのGR86用の純正オプションである「GRモノブロックブレーキキット」(フロント4ポット、リヤ2ポット)は、一台分で55万円の設定。これでもモノブロックキャリパーとしては、リーズナブルなほうだ。 軽くて高剛性なモノブロックキャリパーは、ハードブレーキを頻繁に必要としながら、デリケートなペダル操作ができるドライバーには、高いコントロール性を安定的に発揮できるので、心強い武器となり、ブレーキ操作に余裕をもたらしてくれる素晴らしいものだが、そうでない人には、宝のもち腐れになる可能性も十分あるシロモノだ……。
藤田竜太