自分の幸せを守りながら仕事で成功する「他者志向タイプ」のギバーを目指すには?
ゆとりをもたらすヒントは「やらない」を見極めること
──楠木さんは本のまえがきで、「時間的に鷹揚な人でないと、ギバーにはなれない」と書かれていますが、即効性や効率を求められる現代において、そのハードルは上がっているように感じます。時間や心のゆとりを意識するうえでのアドバイスもぜひいただけますか。 楠木さん 時間というのはお金などと違って貯蔵性がなく、誰にとっても貴重なものです。時間は1日24時間、そして体も頭もひとつであるという意識を持って、「やらないこと」をはっきりさせていくことが大切だと思います。 現代は、色々な人とつながりすぎる側面がありますから、注意を向ける対象を絞ることが、追い立てられるような感覚から離れて、ゆとりをもたらすいちばんストレートな方法だと思います。 ──「やらないこと」の取捨選択は、自分にとって大切なことを見極める作業でもありますね。 楠木さん そこで「仕事を早く終わらせて、ゆとりの時間をつくろう」と考えるのが間違いのもと。「これは自分にとって本当に必要だろうか」と取捨選択していくと、考えるべきことも自然と絞られていきます。それがゆとりの正体です。 先にお話ししたように、仕事は「自分以外の誰かのためにするもの」であり、結果や成果も、事前にコントロールできない不確実なものです。そうした中で自分にとって大切なことを判断するためには、仕事哲学がものをいうのだと思います。 教えていただいたのは… 一橋ビジネススクールPDS寄付講座競争戦略特任教授 楠木建 1964年、東京生まれ。専攻は競争戦略。企業が持続的な競争優位を構築する論理について研究している。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。一橋大学商学部専任講師、同助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋ビジネススクール教授を経て2023年から現職。著書に『経営読書記録(表・裏)』(日本経済新聞出版)、『絶対悲観主義』(講談社+α新書)、『逆・タイムマシン経営論 近過去の歴史に学ぶ経営知』(日経BP)など。『GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代』(三笠書房)の監訳を務めた。 構成・取材・文/国分美由紀