「合理的配慮」コンプラ視点欠ける私立学校の実態 進学フェアで門前払い、交渉できないケースも
現場教員の思いから変わり始めた学校も
ボトムアップの形で変わり始めている私立学校もある。2024年11月に成城学園では同教育研究所主催で菊田氏の講演会「気づけば伸ばせる学習障害~読み書き困難の解決をめざして~」が行われた。「児童生徒の状況に応じて、学び方を選べることが当たり前になるような風土を全学でつくっていきたい」という現場教員の思いから実現したものだという。 「学校側に合理的配慮の用意があっても、保護者がわが子の学習困難を認めないために子どもが合理的配慮を受けられないこともあります。合理的配慮には保護者のコンセンサスが必要ですから、今回の講演会には教員だけでなく保護者も参加できる形にしていただきました」(菊田氏) すると、保護者を中心に幼稚園から大学までの教員、計60名強の参加者が集まり、教員と保護者それぞれの視点から学習困難や合理的配慮に関する質問が次々と寄せられたという。 「公立学校で学習困難や合理的配慮についてお話しすると、試験の配慮はどうすればよいかという質問が中心になります。しかし、成城学園では先生方から『普段の学び方においてどんな工夫ができるか』『この子たちを育てていくにはどうすればいいか』という質問が多く寄せられました。先生方がテストというタスクではなく、その子の成長に照準を合わせているのだと思います」(菊田氏) 同学園では今後、教員有志が中心となって、合理的配慮を含む学習支援やインクルーシブ教育の体制づくりを数年かけて研究していく方針だ。来年は、中高の教員を対象とした研修のほか、幼小中高の教員が合理的配慮について学び合う合同研究会を実施する。「先生の異動もなく児童生徒1人ひとりの成長を長期スパンで見守っていける私立だからこそできることがあると、希望を感じています」と菊田氏は語る。 大切なのは子どもの学習機会が確保されることだ。大学入学共通テストの受験上の配慮事項を見てもわかるように、学習障害を含む発達障害に限らず、さまざまな人が合理的配慮によって学びの機会を失わずにすむ。 私立学校においては、とくに経営層や管理職が理解を深めることはもちろん、合理的配慮を求める側も必要な配慮とその根拠を早めに明らかにしておくことが大切になるだろう。双方が互いの状況を丁寧に説明して建設的に話し合っていくためにも、合理的配慮に関する正しい理解と学校間での事例や知見の共有が求められる。 (文:吉田渓、編集部 佐藤ちひろ、注記のない写真:マハロ/PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部