“恒星間天体の落下による振動” の正体はトラック? 破片採集の主張に厳しい反論
その結果、流星に由来すると見られる金属の小球が50個以上見つかりました。分析結果が典型的な流星とは異なる組成や特徴を示したことから、Loeb氏らはこの小球を「恒星間天体の破片」であると主張しました。もしもこの発見が本当なら、太陽系の外にある物質を詳細に分析できるという、科学的に重要な発見となります。 しかし、大きな発見には異論がつきものです。特に、CNEOS 2014-01-08が恒星間天体であるという主張には、当初から異論も多くありました。まず、重要な前提となる恒星間天体であるという主張は、アメリカ宇宙コマンドの非公開情報の分析に基づくものであり、第三者による検証ができていません。一方、公開情報のみに基づく分析では、恒星間天体である可能性は大きく減少します。また、根拠の1つである落下速度の速さも、観測機器の特性から過剰に速く見積もられているという分析もあります。 さらに、採集された小球が恒星間天体に由来するという主張にも異論があります。Loeb氏らは、小球の組成は太陽系に見られる物質とは異なっており、かつ地球由来の物質による汚染の可能性は低いと主張しています。その組成の異常さは、あくまで科学的な冗談であるものの、異星人の宇宙船である可能性もゼロではないと例えられるほどです。しかし、アリゾナ州立大学のSteve Desch氏などは、小球の組成は普通の流星由来の物質と地球由来の物質とが反応してできる典型的な組成を示しており、特に異常な性質は見つからなかったと反論をしています。
■地震波のデータはトラックの振動と分析
Fernando氏らの研究チームは、CNEOS 2014-01-08にまつわる研究にさらなる一石を投じる研究結果を発表しました。この研究はまだ論文化されておらず、2024年3月12日の月惑星科学会議で発表されたばかりの段階です。 Loeb氏らが採集を行う海域を絞り込む根拠となったデータの1つは、落下場所付近にある地震計のデータです。流星の落下は大気の大きな振動を発生させるため、地震計が大気の振動を捉えることがあります。Loeb氏らはCNEOS 2014-01-08が落下した時刻付近の地震波データを分析し、採集を行う場所を推定しました。この時に分析されたデータは、推定された落下場所に近いマヌス島と、より遠いオーストラリアのコーエンのものです。 しかし、地震計は極めて感度が高いため、非常に遠くで発生した地震や、地震計付近で起こる無関係な振動を検知することもあります。また、パプアニューギニアは地震が多い環太平洋造山帯に属しており、数え切れないほどの地震が発生しています。流星の落下と同時に、全く無関係な地震のデータを捉えることは十分あり得る話です。 Fernando氏らは、絞り込みの根拠となったマヌス島(パプアニューギニア)とコーエン(オーストラリア)の地震波のデータを比較しながら分析を行いました。その結果、マヌス島のデータとコーエンのデータはお互いに無関係である可能性が高く、現実にはあり得ない猛烈な地殻変動を仮定しなければ関連性が示せないことが分かりました。 また、マヌス島の地震波データは、遠方の地震による振動と、地震計の近くを通過したトラックの振動が混ざり合ったデータである可能性があることも分かりました。近くを通っている道路をトラックが通過したと仮定した場合、その振動の強さや方向、継続時間がよく一致したためです。地震とトラックという互いに無関係な振動が重なり合うことも、自身の頻発地域にあれば特に珍しい話ではないでしょう。