「やる気がないならやめなさい」の”うそ”──娘の習い事、山田ルイ53世の試行錯誤 #令和の親
「大人が敷いたレールの上を走るなんて、まっぴらごめんだ!」 いつの世も、若者の共感を集める曲の歌詞やドラマのセリフには、この手のメッセージが込められているものだ。しかし、いざ自分が親の立場になってみると、「レールを敷くのも楽じゃない……」と頭を抱えるのが常。わが子の将来を祈って並べる枕木、その一つが「習い事」だろう。 ……これが厄介である。 よかれと思って通わせ始めた学習塾やピアノ教室も、いつの間にやら、親子げんかの種。リビングに不穏な空気が漂う日が増えていく。事態が好転したためしなどないのに、なぜ親は子どもの「やる気」にこだわってしまうのか。学習塾の塾長や単位制高校の校長として、最前線で親子と向き合ってきた鳥羽和久氏を訪ねた。(取材・文:山田ルイ53世/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
やめてほしくないけど「やめなさい」
「やる気がないなら、もう○○(習い事)やめなさい!」 塾の課題そっちのけでテキストに落書き、タブレットいじりに熱中してスイミングスクールにあわや遅刻……そんなわが子(小5)の姿を目にすると、口をついて出てしまうお決まりのフレーズである。 声を荒らげるのは、妻だったり筆者だったりとその時々だが、いずれにせよ、結果は同じ。「いやだー! ぜったいやめないーー!」と娘の徹底抗戦にあうのがオチだ。 (じゃあなぜ、最初からやってくれないのか……)とこぼす筆者の喉元に、「まず、うそですよね、その『やめなさい』っていうのは?」と冷静なコメントの刃を突き立てるのは鳥羽先生。 一足飛びで核心に迫られ、対局開始直後、「王手!」とたったひと指しであっさり投了を余儀なくされたような気分に陥った。歴史的な棋譜の誕生に震え上がるも、「親は『やめろ!』と思ってませんから!」と苦笑いする先生には、ようやく理解者に出会えたような安堵を味わう。 おっしゃる通り……筆者は娘に習い事をやめてほしいとは微塵も考えていない。 彼女が「じゃあ、やめる!」とへそを曲げれば、「え?……そっち!?」とたちまちうろたえ、醜態をさらすのはコチラだろう。 最終宣告、必殺奥義といった勢いとタイミングで、「やめなさい!」と言い放っておきながら、いや、それゆえに、もう策は残されていないのだ。