平山亜佐子 断髪とパンツーー男装に見る近代史 IS(インターセックス)と思われるお秀、おふじの場合
不思議な男装の人妻
さて、ISつながりでおふじを登場させたが、男装から少しズレてしまったので、同年12月3日付朝日新聞に掲載されたちょっと不思議な男装の人妻の話をば。 〇府下京町堀上通三丁目松田正兵衛の妻某(五十年)は狂気の業〈わざ〉か、男帯を締め其上〈そのうえ〉髪も男髷〈おとこまげ〉にて都〈すべ〉て男子の風俗をなし、且つ他人より旦那といわねば返辞をせぬとか云いすま〈ます?〉妙な婦人もあるものかな なにしろ情報はこれしかないのでなんとも言いようがないが、この某が「旦那」と呼ばれたがっているのは結婚当初からなのか、最近のことなのかわからない。 本連載第一回で紹介した、福岡で「興志塾」をひらいていた男装者、高場乱〈たかばおさむ〉も養子に「お父さん」と呼ばせていたというが、役割名称はアイデンティティを固定化する一方で、そのことがむしろ安心感や居心地の良さを供与する場合もあることがわかる記事である。 1881(明治14)年4月13日付読売新聞記事 田中香涯『医事雑考竒珍怪』(鳳鳴堂書店、1939年) 「男に成り女に成る半陰陽性の者」『スコブル 復刻 (宮武外骨此中にあり 雑誌集成 ; 1-3)』(ゆまに書房、1993年) 「半男女考」『宮武外骨著作集 第5巻』(河出書房新社、1986年) 1881(明治14)年12月3日付読売新聞記事 橋本秀雄『男でも女でもない性 インターセックス(半陰陽)を生きる』(青弓社、1998年) セクシュアルマイノリティ教職者ネットワーク 編著『セクシュアルマイノリティ 同性愛、性同一性障害、インターセックスの当事者が語る人間の多様な性 第3版』(明石書店、2012年) 岩動孝一郎「性分化のしくみと半陰陽」『東京大学公開講座 男と女(東京大学出版会、1974年) クウィーラ,ダーヴィト = ドミニク「江戸中後期における〈障害児〉・〈奇形児〉の捨て子や子殺しに対する認識」九州大学『障害史研究』(2) 日本小児内分泌学会性分化委員会「性分化異常症の管理に関する合意見解 Consensus statement on rnanagement ofintersex disorders‐LWPES/ESPE Consensus Group」 http://jspe.umin.jp/medical/files/guide11203565.pdf 1881(明治14)年12月3日付「朝日新聞」 高橋圭子「名前とアイデンティティ」『ことば:研究誌』(21)(現代日本語研究会、2000年)