「帰国しないでもう少し寿司屋のバイトを続けます」語学留学でオーストラリアに行った女性の選択が象徴する“日本の国力低下”と“若者の海外流出”加速の懸念
GDPが他国に抜かれるたびにアクロバティックな日本擁護
事実、私もこの2年間で同じものをスーパーで買ったとき、3100円だったものが3500~3600円程度に上がっていると実感できます。居酒屋でも、一皿399円だったポテトフライが499円に上がっています。ラーメンは650円だったものが780円といった具合で、総額を抑えるためには、品数を減らすしかありません。 このままでは日本人の購買力がタイやベトナムに抜かれる日も遠くなさそうですが、当の日本人は今でも我が国は経済大国である、と信じ続けている節があります。テレビでは“外国人が日本のクオリティを絶賛!”的なニュースの特集も多いですが、それはあくまでもそのハイクオリティの割に安過ぎるというだけです。 ネットでは、日本経済に対する悲観的な意見があると「物価は確かに上がっているが、コスパの面では日本は世界有数」「こんなに清潔でインフラが整った国はない」と的外れな反論が来る。挙句の果てには「そんなに日本がイヤならば出て行け!」と、謎の追放宣告を食らう始末。 GDPにしても中国に抜かれ世界3位になった時は「あちらは人口が12倍だから当然」で、ドイツに抜かれ4位になった時は「ドイツは物価が日本と比較にならないほど高い」と来る。これから順位が落ちてくる度にアクロバティックな日本擁護をするのでしょう。現在は韓国に対する自尊心の保ち方として、「最近の韓国人メジャーリーガーよりも日本人メジャーリーガーの方が圧倒的な実績を残している」というものがあります。それは日本人がすごいのではなく、個々の選手がすごいだけです。
3ヶ月バイトを続けるだけで234万円の収入に
何があっても日本はすごい、と思い続けるそのメンタリティというか、意地には感心するものの、次の話を聞いて複雑な気持ちになりました。私の知人の娘さんは現在20歳の大学生ですが、1年間オーストラリアに語学留学に行きました。学校は9ヶ月間のため、その段階で帰ってきてもいいのですが、3ヶ月間残ることにしたのです。 理由は、ワーキングホリデーで働く寿司屋でドリンクを作る彼女の時給が3000円だからだと言います。しかも賄いがつく。仮に1日10時間、週6日働いた場合、1週間で18万円の収入になります。3ヶ月を13週間としたら、234万円の収入になります。なんと寿司屋のバイトを続けているだけで年収900万円以上になるのです。これは約6万米ドル。 ここで得意の「オーストラリアは物価が高いからだ!」攻撃をする人もいるかもしれませんが、自炊をすればそこまで高くありません。しかも、彼女は学校から遠いホストファミリーの家に住んでいるためホンダの中古車を50万円で購入しましたが、下取りに出す際、同様の価格で売れるとのこと。数ヶ月でも多く外貨を稼ぎ、日本での生活をラクにしようと考えているわけです。 同じことを考える日本人の若者が増えれば増えるほど、ワーキングホリデーを使ってオーストラリアやニュージーランドやカナダで働き、当地で節約生活をしてカネを貯める。英語も上達し、現地で恋人ができようものなら、あちらの国籍を取り、若者の海外流出が進む可能性があります。そう、日本の地方都市が軒並み首都圏をはじめとする大都市に若者を取られ、人口減少が起き平均年齢が上がるのと同じ現象が、日本全体で発生するかもしれません。 年初から暗い話になりましたが、2008年の「年越し派遣村」の時以上に現状は悪化しているといえましょう。 【プロフィール】 中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は倉田真由美氏との共著『非国民と呼ばれても コロナ騒動の正体』(大洋図書)。