高齢家族の車や自転車 説得は逆効果も 運転をやめてほしい家族への効果的な声のかけ方
認知症介護指導者の上村尚之さんが、高齢者や介護の様々な悩みに答えます。 【関連】高齢者が行方不明になる「本当の理由」 脳科学者が知った、認知症の母がいた場所、待っていた人
Q.祖父は80代なのに、自転車で近所をウロウロしていて、先日は遠くまで行き道に迷ったようです。「危ないから乗らないで」と伝えますが、聞いてくれません。鍵を隠すなり自転車を処分するなりしたほうがいいと思うのですが、両親には反対されます(10代・女性)
A.確かに鍵を隠してもそれを壊して乗ってしまうかもしれませんし、自転車を処分しても新しいものを買ってくるかもしれないので、解決にはならない可能性があります。 デイサービスに勤務していたときに、自転車を乗り回す利用者の方がいました。フラフラしながら乗っているので周囲が止めても、本人は乗れているという自覚があるので聞く耳をもたなかったのですが、あるとき溝にはまって転んでしまったのです。大きなケガにはなりませんでしたが、それ以来乗らなくなりましたね。 また、ある方が認知症と診断されてからも車を運転していて、「自分は昼間しか運転しないし、必ず誰かに同乗してもらうというルールのもとに運転していて、実際に事故を起こしたことはない。だから運転をしてはいけないと言われるのは納得がいかない」と話していたんですね。 こうした例からもわかるように、大事なのは説得されることではなく、本人の納得なのです。この認知症の方は、それでも「孫からお願いされたら運転をやめるかもしれない」とおっしゃっていました。孫のことは「かわいくて仕方ないから」と。誰からどんな気持ちで言われるのかということがポイントになりますし、さらに言われたことを本人が納得するということが大事なのだと思います。 おじいさんは相談者から「危ないから乗らないで」と行動を指示されても、納得できなのでしょう。行動を指示するのは逆効果になることもあります。そうではなく、心配だという気持ちを伝えるほうが納得につながりやすいと思います。相談者はおじいさんが道に迷ったと聞いたとき、本当に心配だったはずです。その心配な気持ちをそのままおじいさんに伝えるということが大事です。すぐに納得してくれなくても、まずは「乗るのは昼間だけにする」といった約束だけでもできるといいですね。それだけでも道に迷ったり事故にあったりするリスクは減ります。夕方になって暗くなると見える景色が変わるので、慣れている道でも迷ってしまうことがあるからです。 1回話しただけでは受け入れてくれないかもしれないので、繰り返し気持ちを伝えていくことも大事です。相談者からウォーキングに誘ってみるのもいいと思います。歩くことも楽しいと感じられれば、自転車に乗らなくてもいいと思えるかもしれません。 どうしたら本人が納得してくれるのかということを考えて、コミュニケーションをとっていってほしいと思います。
【まとめ】80代の祖父が自転車で近所をウロウロしていて心配なときには?
・「乗らないで」と行動を指示するのは逆効果になることもあるので、避ける ・心配な気持ちを繰り返し伝える ・すぐに納得してくれない場合は「乗るのは昼間だけにする」といった約束だけでもしておく ≪お悩みの内容については、介護現場の声を聞きながらなかまぁる編集部でつくりました≫
上村尚之