【ABC特集】「物が欲しくて盗んでいる訳ではないのに、何がしたいんだろう」 通算2000日以上を刑務所で過ごした「窃盗症(クレプトマニア)」の女性が再び万引き 抑えられない「衝動」の正体とは
■「物が欲しくて盗んでいる訳ではないのに。何がしたいんだろう」
(山田さん) 「おはようございます。よろしくお願いします」 去年11月、山田さんは大阪市内のあるNPO団体を訪れました。罪を犯した障害者の更生や居住支援に力を入れているNPO「ぴあらいふ」(本部・大阪市旭区)です。 初公判が迫っていましたが、国選弁護人の選任請求の手続きが山田さんにはなかなか理解ができず、たまたま活動内容を知ったぴあらいふで相談することにしたのです。理事の中岸真実さんが寄り添います。中岸さんにとっては手弁当でのサポートです。 (中岸さん)「ここにチェックやね。『障害者刑事弁護に詳しい方をお願いします』と書いてみましょうか。弁護士会には特別な研修を受けた弁護士の方がいますよ」 (山田さん)「ちょっと字が震えちゃうんですけど。ゆっくり書きますね」
今年1月、無事に国選弁護人が決まり、大阪地裁で初公判が開かれました。 山田さんは起訴内容を認めました。国選弁護人の堀伸一弁護士は、山田さんの精神疾患の影響で犯行当時は刑事責任能力がなかったか、著しく低下していた状態だったと主張しました。責任能力がなかったと認められれば無罪に、著しく低下していたとなれば減刑されることになります。 山田さんがかつて役所に提出した、病歴や病状を自ら書き記したメモが残されています。そこには、その時々で抱えてきた苦悩が記されています。 (山田さんのメモ) 「長男を出産。先天性の難病が判明し、私が病気の子に生んでしまった。誰にも助けてもらえない。私が悪いのだからと逃げ場がなかった」 「私はどうしてしまったんだろう。物が欲しくて盗んでいる訳ではないのに。何がしたいんだろう」
■アップダウンの激しい半生
「こんなことが犯罪をしていい理由にはまったくならないのですが」と話した上で、山田さんは自身の暗い生い立ちを語りました。 山田さんは、貿易会社を営む父と母のもと、関西地方随一の高級住宅地で生まれ育ちました。幼い頃からきらびやかなアクセサリーやおもちゃなど珍しい舶来品に囲まれ、友達からは憧れの的だったといいます。しかし、やがて父の会社は経営が立ちゆかなくなり倒産。父の家庭内での暴力がひどくなり、山田さんは、母親、きょうだいとともに夜逃げをしました。爪の先に火をともすような生活を続けるうち、今度は母親からの「言葉の暴力」に苦しめられたといいます。「あなたは産んであげたのよ。ほかの子のように流せばよかった」。 (山田さん) 「ずっと『けったいな子』(変わった子)と言われ続けて育ってきました。親にも周囲にも嫌われてはいけないと思い、周りの顔色ばかりをうかがう子どもでした」 最初の結婚相手とはなかなか子が授からず、義母の目が気になって離婚。その後に出会った現在の夫との間に待望の男の子が生まれましたが、先天性の難病を抱えていることがわかりました。付き添い入院で体力をすり減らす毎日でした。 (山田さん) 「この子を病気に生んでしまって、この子を苦しめてるのは私かなってずっとそういうのはあって」 最初の窃盗はこの頃だったといいます。一時退院した息子と訪れた百貨店で、大きなクリスマスツリーを店外に引っ張り出したところで逮捕されました。「犯行の瞬間のことが記憶にない」「家に帰って盗品を目にして万引きしたことに気づく」。そんなことが相次ぐようになりました。 「自分は病気なのか」「病気だったとしても、万引きをすべて病気のせいにしていいのだろうか」。山田さんは思い悩んでいました。
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