「何度も起きてしまう」「長く寝たのに疲れが取れない」その悩み、意外な方法で解決するかも…睡眠学会専門医が解説
◆睡眠中に「深い呼吸」をするには… 以上のように、健康に大きな影響を与える呼吸と睡眠。 人生の3分の1は睡眠時間と言われている以上、睡眠中の呼吸がとても大切になります。その意味で、睡眠中の呼吸をなるべく深く、ゆっくりとしたリズムにすることが、健康を維持するための鍵となるわけです。 とはいえ、起きている間とは異なり、睡眠中の呼吸は意識的に変えることができません。そのためか、重要性がこれまでは見逃されがちでした。 では、どうしたら睡眠中に深い呼吸をすることができるようになるのでしょうか? そこには、寝具が深く関わってきます。睡眠時の呼吸を妨げず、むしろスムーズにしてくれる寝具を選ぶ。それによって眠りの質が大きく向上し、冒頭の「何度も目が覚める」「しっかり寝たはずなのに疲れが取れない」といった悩みが解決する可能性もあるのです。 まず枕について。 市販の枕の中には、首を過度に前方に押し出すことで、気道が狭くなり、呼吸を苦しくしてしまうものがあります。それだと口呼吸になりやすく、睡眠中の口呼吸は自然と浅く速くなります。 また、頭の角度が悪いと舌根沈下(舌の根元が後方に落ち込んで気道を塞いでしまうこと)を起こし、無呼吸を起こしやすくなってしまいます。そのため、質の良い睡眠を得ることができなくなってしまうわけです。 マットレスにも注意が必要です。 呼吸は、横隔膜や肋間筋、斜角筋が胸郭を動かすことで、肺の換気を行ないます。立っている時は背中に圧力がかかっていませんが、寝ている時は、自分の体重分の体圧がマットレスからかかることにより、胸郭運動が弱まります。また、横隔膜の動きも立位時に比べて制限されてしまうため、呼吸が浅くなる傾向にあります。
◆寝具選びのポイント 昭和の時代に主流であった綿布団は、お尻や背中にかかる体圧は大きいものの、肩や腰のあたりは綿の特性上、押し返す力が弱いため、呼吸を弱める力は限定的でした。 しかし、近年増えている反発力のあるウレタン素材のマットレスなどでは、体圧が小さめな首や肩、腰付近でもウレタンの押しかえる力が過度に働くと、呼吸筋や骨格が圧迫されてしまうことがあります。その結果、呼吸を浅くしてしまう可能性も生じます。 ですので、枕は気道を圧迫しないものを、マットレスは背中に体圧がかかりにくいものを選ぶのがよいと思います。それにより睡眠中に「深い呼吸」ができるようになり、睡眠の質を高める効果が期待できます。 起きている時も寝ている時も深い呼吸を意識する。それによって自律神経のバランスが整い、特に夜は副交感神経が高まることから、体がリラックスして眠りやすくなります。 さらに、深い呼吸は血液中の二酸化炭素濃度を適度に上げ、血管が拡張し、血液循環が促進されます。 これにより細胞への酸素供給が効率化され、ミトコンドリアでのエネルギー産生が活発になり、結果として自然治癒力が向上すると考えられています。 以上の理由から、「深い呼吸」は睡眠の質の向上だけでなく、全身の代謝を活発にし、健康維持に貢献する可能性があると言えるでしょう。
高島雅之