「脳」の病気と考えられてきた<パーキンソン病>。最新研究で実は「腸」と関係があることが判明。医学博士「なので予防にはある食事を多く摂るべきで…」
◆腸内の異常なタンパク質とパーキンソン病の関係 これらの状況証拠を組み合わせて考えると、このα-シヌクレインに類似したカーリータンパク質が、腸の求心性迷走神経内の正常型α-シヌクレインを異常型α-シヌクレインに変化させ、求心性迷走神経内でレビー小体を形成します。 そして、この異常型α-シヌクレインが脳へと輸送されることで、パーキンソン病を引き起こすのではないか、という仮説が提唱されました(1-3)。 そこで、腸内でカーリータンパク質を産生するある種の腸内マイクロバイオータを餌に混ぜてラットに投与したところ、ラットの脳内で異常型α-シヌクレインの蓄積が増加しました(1-4)。 また、マウスを用いて同様の実験を行ったところ、脳内に異常型α-シヌクレインが蓄積し、マウスの運動機能が低下したのです(1-5)。 こうした実験結果から、腸内の異常型α-シヌクレインが、何らかのしくみによって脳へと輸送され、ニューロンに異常型α-シヌクレインが蓄積することがわかりました。 腸から脳への異常型α-シヌクレインの輸送経路として考えられるのが、血液循環と求心性迷走神経を介した経路です。 そこで、異常型α-シヌクレインを腸に注入する前にマウスの求心性迷走神経を切断しておくと、脳内で異常型α-シヌクレインが蓄積されなくなりました。 つまり、腸内の異常型α-シヌクレインは、求心性迷走神経を介して脳へと輸送されていたのです(1-6)。 最近の研究では、パーキンソン病の患者の腸内マイクロバイオータでは、クロストリジウム属やバクテロイデス属の細菌が少なく、ラクトバチルス属が多いことが報告されています(1-7)。 またパーキンソン病の症状が重くなるほど、アッカーマンシア属の細菌が増加することが報告されています(1-8)。
◆食物繊維はパーキンソン病予防に有効か? 神経疾患の一つ、レビー小体が大脳全体に蓄積していくレビー小体型認知症では、ルミノコッカス属やコリンセラ属の細菌が増加する一方、ビフィズス菌が減少することが報告されています(1-9)。 消化管の表面は、腸管上皮細胞がむき出しになっているわけではなく、杯細胞(さかずきさいぼう)と呼ばれる細胞がムチン(糖タンパク質)と呼ばれる粘液を分泌することで、粘液層を作り、腸管上皮細胞を覆っています。 このムチンは、私たちが摂取する食物繊維を腸内マイクロバイオータが分解して産生する短鎖脂肪酸が、杯細胞に作用して分泌を促します。 アッカーマンシア属の細菌は、このムチンを栄養源として粘液層に棲みついています。一方で、食物繊維(とくに水溶性)を摂取することでアッカーマンシア属の細菌が増加し、腸内の短鎖脂肪酸の濃度が上昇し、杯細胞からのムチンの分泌が促されて、その結果、粘液層が厚くなることも知られています。 食事由来の食物繊維が少なく食物繊維飢餓に陥ると、腸内マイクロバイオータが産生する短鎖脂肪酸の濃度が低下するため、杯細胞からのムチンの分泌が減少します。 その結果、腸管の粘液層をアッカーマンシア属の細菌が消化してしまい、粘液層が徐々に薄くなります。 すると、腸管バリア機能が低下し、腸管内の物質が直接求心性迷走神経や血中へと入り込むリーキーガットの状態になります。 このような状況で、もし腸内に異常型α-シヌクレインが存在した場合、異常型α-シヌクレインが求心性迷走神経に取り込まれ、それが脳へと運ばれ、脳内で蓄積することで、パーキンソン病を発症するのではないかと考えられます(下図)。 一方で、上記の研究結果から想像を膨らませて考えると、食物繊維(とくに水溶性)を多く含む食事を摂ることで、腸内マイクロバイオータが産生する短鎖脂肪酸を増加させ、杯細胞からの粘液の分泌を促し、粘液層を厚くすることが、パーキンソン病の予防、症状の進行を抑えるのに有効かもしれません。 ・参考文献 1-1 Baba M et al., American Journal of Pathology 152, 879-884, 1998. 1-2 Braak H et al., Neurobiology of Aging 24, 197-211, 2003. 1-3 Friedland RP, Journal of Alzheimer's Disease 45, 349-362, 2015. 1-4 Chen SG et al., Scientific Reports 6, 34477, 2016. 1-5 Sampson TR et al., eLife 9, e53111, 2020. 1-6 Kim S et al., Neuron 103, 627-641, 2019. 1-7 Hasegawa S et al., PLoS ONE 10, e0142164, 2015. 1-8 Bedarf JR et al., Genome Medicine 9, 39, 2017. 1-9 Nishiwaki H et al., npj Parkinson's Disease 8, 169, 2022. ※本稿は、『「腸と脳」の科学 脳と体を整える、腸の知られざるはたらき』(講談社)の一部を再編集したものです。
坪井貴司
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