“天文学的” な罰金「200溝ドル」を実際に払おうとするとどうなるのか?
「天文学的数字」とは、巨大な数に対する比喩表現としてよく使われますが、全く天文学と関係のない分野で、天文学の範疇に収まる巨大な数が出てくることは珍しいです。 ロシアの裁判所は2024年10月末、アメリカのインターネット企業「Google」に対し、動画配信サービスを提供する子会社「YouTube」がロシアの17の放送局チャンネルをブロックしているとして2澗ルーブル(約200溝ドル・約3澗円)の罰金を支払うよう命じました。 むろん、時価総額が約2兆ドルのGoogleが200溝ドルの罰金を支払うには長い年月がかかり事実上不可能ですが、では実際にそれほどの金額を一括払いできたらどうなるのでしょうか?本記事では実際に200溝ドルを1ドル紙幣で支払おうとした場合にどうなるのかを考察します(貨幣を1ドル紙幣とした理由は記事末尾の注釈※1を参照)。
天文学的な罰金はなぜ現れたか
この記事にたどり着いた人は、おそらく他のメディアにて同じ話題のニュースを参照したでしょう。簡単に言えば、この天文学的な金額は以下のような方法で算出されています。 1. ロシアの放送局に関連するYouTubeのアカウントを9か月以内に復旧させない限り、その日を過ぎてから罰金を科す。 2. 罰金は10万ルーブル(約1000ドル・約15万円)を基本とする。 3. 罰金の支払いがない場合、毎週2倍ずつ罰金は増えていく。 特に3番目の性質から、複利の罠によって罰金は雪だるま式に増えていきます。報道ではキリよく2澗ルーブル、あるいは200溝ドルという金額が掲載されていますが、これは105週間(約2年)罰金の支払いをしない場合に達する金額です(※2)。日本においてはルーブルよりドルの方が知名度がある、あるいはアメリカのGizmodoの報道を翻訳したものがSNS上で拡散されたせいか、2澗ルーブルよりも200溝ドルの方が数値として参照されます。 この数字は、Googleの名前の由来である巨大な数「グーゴル(Googol)」よりははるかに小さいです。1グーゴルは10の100乗、つまり1の後にゼロが100個つく101桁の数であり、1グーゴルと比べれば、200溝ドルという35桁の罰金ははるかに少ないためです。 とはいえ、時価総額が約2兆ドルのGoogleの資産を全て投げ打っても焼け石に水であり、国際通貨基金が推定した世界全体の経済規模約110兆ドルでも足りません。地球全体の金(通貨ではなく元素の方)を、それも地表だけでなく中心核に含まれている物も全て掘り出したとしても、総額は約140垓ドル(※3)であり、地球型惑星をあと1400億個ほどすりつぶさなければなりません。全人類1人1人が5000兆円=約33兆ドルを持っていたとしても2700垓ドルであり、200溝ドルを満たすには「370秭円欲しい!」と叫ぶべきでしょう。 到底支払うことが不可能なほど高額な罰金は、その正確な額よりも象徴的な意味合いを持たせていることを、ロシアのドミトリー・ペスコフ報道官も認めています。しかし、仮にこの罰金を、全て1ドル紙幣で一括払いができたとしたらどうなるでしょうか?