「DV・売春・クスリ」彼女がどん底から見た“光と影” 「不適切にも」で話題、河合優実主演「あんのこと」
そこには、壮絶な生い立ちでありながらも、希望をもって人生をやり直そうとしていた若い女性の人生と、その行方が記されていた。 その記事に衝撃を受けた國實プロデューサーは「コロナ禍で社会が分断され、多くの人たちが苦しんでいる。システムのほころびが次々とあらわになり、弱い立場の人ほどそのしわ寄せをくっている」という憤りとともに、「彼女の人生を残さなくては」と強い使命感を抱いたという。 そんな國實プロデューサーの思いを具現化するべく声をかけられたのは、『ビジランテ』などで組んだことのある入江監督だった。『22年目の告白―私が殺人犯です―』『AI崩壊』といった大作から、『シュシュシュの娘』といった自主制作まで、作家性とエンターテインメント性の絶妙なバランスからもたらされる作品を数多く発表してきた気鋭の映像作家である。
■「かわいそうな子」として描かないようにする 入江監督自身も「2020年から2021年にかけて社会を覆っていた“あの空気”を忘れないように記録しておきたい」と、その思いは一緒だった。そこでモデルとなった女性について入念なリサーチをはじめ、彼女の人生にとことん向き合いながら、何度も何度も書き直しながら脚本を紡ぎ出した。 そこで決めたことは「この子をかわいそうな存在として描くのはやめよう」ということ。たとえ壮絶な人生を送っていたとしても、彼女にだって楽しく豊かな時間があったに違いない。だったら彼女の人生と併走し、その体温を身近に感じようとすることが必要なのではないか。
そしてそれは主演の杏を演じた河合優実とも共有していたことだった。実際の事件をもとにした作品ではあるが、実在する人たちに失礼のないように描き出すことを第一とし、キャスト・スタッフともに悩みながら、終始誠意をもって、覚悟をもって、映画づくりに向き合った。 「河合優実さんという俳優の肉体を借りて、モデルとなった女性が向き合っていた世界を、皆で一緒に再発見していきたかった」という入江監督とともに本作に向き合った河合。