「DV・売春・クスリ」彼女がどん底から見た“光と影” 「不適切にも」で話題、河合優実主演「あんのこと」
「とりあえず売春はやめろ。薬を抜くためにはまず自分を大切にするところからだ。夢中になれることを探せ」と諭す多々羅は、自身が運営する「サルベージ赤羽」という薬物更生者の自助グループに杏を誘う。 社会に出ようとしていた杏に対して、雇用主は低賃金で給料をごまかそうとしたり、生活保護の担当者も杏の話に聞く耳を持とうとはしなかったりもしたが、多々羅はそんな冷たい大人たちに対しても怒りの声をあげて守ろうとするなど、ぶっきらぼうながらも親身になってくれた。
■新しい人生を歩み始めたものの… これまでに出会ったことがないような大人であり、これまで大人を信じることのなかった杏も次第に心を開くようになる。 そんな杏に向かって「多々羅さんって面白いよね」と話しかけてきたのは、3年前から多々羅の取材を行っているという週刊誌の記者・桐野(稲垣吾郎)という男だった。 多々羅と桐野、ふたりの大人たちに見守られながら、少しずつ居場所を見つけていく杏。クスリを絶ち、つたない文字で日記を書き始め、新しい職場で働き始めた。さらには母親の元を去りDVシェルターに身を寄せて、漢字の勉強も始めた。
新しい人生を歩み始めた杏の表情は次第に生気を帯びるようになった。だが2020年、未知のウィルスがもたらす感染症が世界を一変させた。何かをつかみかけたように見えた杏の人生の歯車も少しずつ狂い始めた――。 本作の企画が始動したのは2020年初夏。新型コロナウィルスが猛威をふるい、一瞬にして大切なものを奪われることを恐れた人々の間で寛容性が失われていった時期だった。 イライラは募り、社会全体が息苦しさを感じていた。そんなとき、俳優・監督のマネージメント業を行う鈍牛倶楽部を運営する傍ら、映画プロデューサーとして『PLAN75』や『逃げきれた夢』など数多くの映画を手掛ける國實瑞惠プロデューサーは1本の新聞記事に目を奪われる。