「商店街のアイドル」は"小さな漫才師"だった…0円で小学生に漫才を教える「大阪のおっちゃん」(54)の正体
■「ここにくれば安心」と思える場所にしたい こどもお笑い道場から派生して、昨年からひとり親家庭やヤングケアラーのための支援事業も始めた。毎月第3土曜日に、子ども食堂やお弁当の提供などを行っている。 小川さんとともにこの事業に奔走するのは、取材に協力してくれた北村純さん。彼女は今年から共同経営者として小川さんの会社の代表も務めている。 「西淀川区には、助けを必要としているご家庭がたくさんいらっしゃいます。ごみが散乱している中で生活している子や親の介護で学校に行けない子もいました。今は大阪市からの助成金やこども家庭庁から予算を立ててもらえているので、だいぶできることが増えて。ネット通販をしている方から、物資を提供してもらえているのも助かっています」 この支援事業は軌道に乗っているというが、こどもお笑い道場との兼ね合いが難しいという。毎日生活することが大変な子どもたちは、お笑いどころではないのだろう。 だからこそ、小川さんたちは「すべて無料」を貫くのだ。いざ、子どもがやってみたいと思ったときに、金銭的なことを足枷にしたくない。漫才をしても、しなくても、みんなが「ここにくれば安心」と思える場所にしたい――。それが小川さんの願いだ。 ■子どもたちが漫才に夢中になる本当の理由 2024年11月に開催された「全日本こどもお笑いコンテスト」では、こどもお笑い道場に通う小学5年生のけいじろう、あさひ、じゅんきのトリオ「ピンポンパントマト」が優勝した。冒頭に記述した、即興漫才を見せてくれた彼らである。彼らは今年尼崎キューズモールで行われた「Q1グランプリ」で、プロの芸人が出場するなか、3位に入賞する快挙を成し遂げた。 同じく道場に通う最年少の「いとこチーム」と、盲目の小学生と母親の漫才コンビ「おちゃのは」も、今年のM-1グランプリで1回戦を突破している。 「今年のM-1決勝、子どもたちも楽しみにしています。2019年に身近な存在だったミルクボーイが優勝して、テレビの向こうの世界じゃなく、リアルな感覚があるのかもしれません」と小川さん。子どもたちが漫才に夢中になるのは、夢を実現する大人が身近にいるからかもしれない。 子どもたちの活躍は、地域の人たちの喜びにも繋がっている。「あそこで子どもたちがお笑いをしてるらしい」と噂が広まり、老人会や町内会から声がかかるそうだ。 そこでの子どもたちの人気は、まるでアイドルだ。子どもたちがマイクの前に登場すると、観覧者から大きな拍手で迎えられる。漫才を始める前は人前で立つことが苦手だった子たちは、いつしか大人たちの前で漫才を披露することで自信をつけ、堂々とした姿を見せるようになった――。 こどもお笑い道場を立ち上げて13年。最初に通っていた子どもたちは、立派な社会人に成長しているという。卒業生の1人はJR西日本に勤めており、彼女を連れてたびたび横っちょ座の公演を観に来るそうだ。きっと小川さんは彼の前で、お決まりの「チョップポーズ」をして漫才をするのだろう。 「こんなおっさんでも『がんばったら夢、叶うで』ってところを、子どもたちに見せたいですね」 ---------- 池田 アユリ(いけだ・あゆり) インタビューライター 愛知県出身。大手ブライダル企業に4年勤め、学生時代に始めた社交ダンスで2013年にプロデビュー。2020年からライターとして執筆活動を展開。現在は奈良県で社交ダンスの講師をしながら、誰かを勇気づける文章を目指して取材を行う。『大阪の生活史』(筑摩書房)にて聞き手を担当。4人姉妹の長女で1児の母。 ----------
インタビューライター 池田 アユリ