「商店街のアイドル」は"小さな漫才師"だった…0円で小学生に漫才を教える「大阪のおっちゃん」(54)の正体
■最大24席の「日本一小さい」お笑いライブ会場を作る 横山さんの下で小川さんがお笑いを学び始めた頃、こどもお笑い道場に通う子どもたちはM-1グランプリで「ナイスキッズ賞」を受賞するなどの活躍を始めていた。 「こりゃ、本格的な場所を作らな」と思った小川さんは、2018年11月、JR塚本駅(大阪市淀川区)すぐの場所の空き店舗を改装し、最大24席のお笑いライブ会場「横っちょ座(現在は近隣に移転)」をオープンさせた。 「日本で一番小さい劇場と呼ばれる『浅草リトルシアター』が30席だから、僕が日本一小さいお笑い劇場の館長やと思います」と小川さんは笑う。 現在、「横っちょ座」では毎月第1・3火曜日に、気心の知れた芸人たちを集めて「塚本コメディアワー」と題してお笑いライブを行っている。「10人でも観に来てくれたら、みんなで『今日はお客さん、多かったなぁ!』って話すんですよ」と小川さん。 毎週土曜の朝9時からは、市内外から十数人の小学生らが漫才のネタ合わせをするためにやってくる。小川さんはそれを客席から真剣なまなざしで見つめ、「ありがとうございました」と漫才でお決まりの一礼をした子どもたちに声をかける。 ■道場で大切にしていること 「道場を始めた頃に、友人で芸人の兵動大樹くんが来てくれたことがあってね。子どもらが、彼の前で漫才を見せたんです。終わってから、彼が『ここのとこな、パーンッてツッコまれたときに、クルッと回ってみたらどうや?』ってアドバイスしたんです。それで子どもたちが試したら、別物の漫才になったんですよ!」 小川さんは、その日から体の動きを工夫するように提案したり、伝わりにくい部分を一緒に考えたりするようになったという。 こどもお笑い道場には、規則がほとんどない。ただ、「人を傷つける表現はやめよう」というルールがある。 漫才の中で出てきた言葉で「これはちょっと……」と思うものがあると、子どもたちに別の言葉で言い換えられないかと話すそうだ。そこで、子どもたちに「なんでこれを言ったらダメなの?」と聞かれるという。「そこからは、倫理の授業です(笑)」と小川さん。かみ砕いて説明すると、子どもたちは理解してくれるそうだ。 子どもたちに漫才を教える上で小川さんが大切にしていることは、「自分の力で考えてもらうこと」、そして「否定しないこと」だという。 「人と違ったことを言って批判されたり、笑われたりすると、恥ずかしくなりますよね。『自分の考えは重要じゃないかも』って感じる。それは、すごくもったいない。どんなアイデアでも僕は『それ、面白いかもしれへんで』って言います」 小川さんは、「子どもそれぞれのパーソナリティーをいかに広げるかが大事です」と語る。だが、集団生活ではその個性がマイナスになってしまうことがある。だからこそ、小川さんはこの道場を開いたのだ。 「学校生活の中でウィークポイントだったことが、漫才の世界ならストロングポイントになるかもしれない。心理的に安全な空間でお笑いをやろうっていうのが、この道場のチャレンジです」 小川さんは独身で、子どもはいない。そのためか、周囲の人に「子育てしてないくせに、子どものことなんてわからへんやろ」と言われることがあった。小川さんは「してないからこそ、わかることもあるんです」と語る。 「親御さんが大変なのはわかってます。24時間365日、時にストレスにさらされながら子育てしてるわけですから。僕らは言うて1日数時間のリミットがある。だからこそ万全の状態で子どもたちに向き合えるし、続けられるんです」