ベニシアが退院して始まった自宅介護 「逃げない」と決めたが、想像以上の大変さに不安も
梶山正の「ベニシアと過ごした最後の日々」
ハーブ研究家のベニシア・スタンリー・スミスさんの夫、梶山正さんが、2人で過ごした最後の日々をつづります。 【写真3枚】ゼラニウムやセージの鉢植えの並ぶ窓辺でくつろぐベニシアさん
グループホームで新型コロナウイルスに感染して衰弱し、日本バプテスト病院に運ばれたベニシアは、2022年9月28日に36日間の入院生活を終え、退院することになりました。担当医の湊先生に説得され、僕はベニシアを大原の家に連れて帰ることにしたのです。1年2か月ぶりの自宅生活です。やっと僕はベニシアと向き合う決心をしていました。
今ほんとうにやらなければならないこと
ベニシアがグループホームに入居していたあいだ、「僕は彼女に悪いことをしている……」という気持ちからずっと逃れられませんでした。そこでの生活が合わないようで、いつもつらそうにしていたからです。早く彼女を家に連れて帰ればよかったのです。でも、そうしなかったのは、僕は自分のことを優先して生きていたからです。自分の生活のほとんどが介護に縛られることになるだろうと予想しました。それが嫌で逃げていたのです。 この人生でいま対峙(たいじ)すべき問題から逃げていると、人はどうなるでしょう。目をそらし続けても、心を誤魔化(ごまか)すことはできません。人は自分のためだけに生きるのでなく、愛する妻や家族、そして人々のためにも尽くさなければならない。それが人間の生きる道だと思います。人生は楽しい幸せなことばかりでなく、苦しみもあります。全てを受け入れないと、ほんとうに正しく生きることにはつながらない。今になってそう思います。 湊先生から「家で看(み)ることをすすめます。仕事なんかやめたらいい」とハッキリと言われて、僕は今ほんとうにやらなければならないことに気づきました。ベニシアは前のように元気で健康な状態には、もう戻れなくなっていたのに、僕はぼーっと寝ぼけたようにマヌケに生きていたのです。 でも残りの人生はより正しく前向きに生きたい。おそらく、これから僕と同じような経験をする人が出てくることでしょう。何か少しでも役に立てればと思っています。