ベニシアが退院して始まった自宅介護 「逃げない」と決めたが、想像以上の大変さに不安も
心強い訪問診療・介護のスタッフ
ベニシアと僕を乗せた介護タクシーは、高野川の狭い谷間の道を登っていきます。 「大原に帰るんだよ。これからずっと大原の我が家で暮らすんだよ」。不安そうな顔のベニシアに僕は話しかけます。彼女は目が見えないので、どこに連れて行かれるのかわからないのです。つらい生活が続いて、表情をなくしていた彼女から気持ちは読み取れませんでした。でも、自宅で彼女の介護をする決意をして、心配はありましたが、じわじわと力がみなぎっていくような、前向きな気持ちの方がずっと大きかったです。 タクシーが大原盆地に入ると、あぜ道にはたくさんの赤い彼岸花が咲いてました。我が家に着くと、「渡辺西賀茂診療所」の渡辺先生と看護師、そして訪問看護ステーション「かんご屋」の看護師5人と「ケアサポートいちえ」の介護士3人が家の中から出てきました。友人の桃子さんが家の中に彼らを案内して、ベニシアの帰りを待ってくれていたのでした。 8畳間の真ん中にセットしておいた介護用ベッドに、介護タクシーのストレッチャーに横たわるベニシアを運んでもらいました。医療と介護スタッフの皆さんと直接顔を合わすのは、その日が初めてでしたが、すぐに打ち解けました。こんなにたくさんの人々が毎日交代で来て、ベニシアを助けてくれると知り、心強いと思いました。
介護する日々が始まった
いよいよ介護と看護の日々が始まりました。ヘルパーと訪問看護師は毎日2回ずつ、訪問診療の渡辺先生と訪問入浴は週に1回、それに訪問マッサージが週2回といったスケジュールです。 まず朝8時半にヘルパーが来ます。体温を測り、介護オムツを交換します。ベニシアは自分ではほぼ動けない状態なので、ポータブルトイレも使えないのです。 それから飲み薬を混ぜたゼリーを食べさせて、お湯でぬらしたタオルで顔を拭き、スポンジブラシと歯ブラシで口腔(こうくう)内をきれいにして終了です。これらを30分の時間内に終わらせるのは、結構忙しいです。 口腔ケアとは、ただの歯磨きだと僕は思っていましたが、とても重要なことだそうです。おろそかにすると口の中は細菌が繁殖し、細菌だらけの唾液が痰(たん)の原因になります。その細菌だらけの唾液や痰を誤嚥(ごえん)して気道に入ると肺炎になります。健康な人は気道内に唾液が入ると、むせたり、咳(せき)をしたりして吐き出しますが、高齢者はその働きが弱くなっています。高齢者の死亡原因の中で、誤嚥性肺炎は上位に入っているので注意しなければなりません。 最初のうちは排せつの世話のために午後8時にもヘルパーが来てくれていましたが、夜はほとんど便意がなく、僕一人でも大丈夫だと考え、なしにしてもらいました。