シリアは今後も虐殺が続く カギ握る米国「ボルトンvs.マティス」
「化学兵器使用した証拠ない」と主張するロシア
ロシア側の主張では「アサド政権が化学兵器を使用した証拠がない」ということですが、戦争犯罪者側のそんな言い分は、国際社会ではまったく相手にされていません。アサド政権側はすでに化学兵器を一般住民の居住地に常態的に使用(少なくとも80回以上)していることが知られており、そうした国際法違反を調査しようとする国連や化学兵器禁止機関(OPCW)などの努力をロシアは常に妨害してきました。 今回の化学兵器攻撃でも、悲惨な被害状況の証拠映像が撮影・発信されており、それを裏付ける証言も多数出ています。ロシアやアサド政権の側は、それを否定する証言や映像を公開していますが、それらはいずれも捏造されたのが明らかなものばかりです。そもそも「化学兵器そのものが使用されていない」とか「反体制派が自作自演で使った」とか、主張が二転三転しています。 それに、化学兵器禁止機関の調査団がダマスカスに入っていますが、アサド政権とロシア軍がその調査を妨害しています。真相を隠蔽しようとしていることは明白です。
「アサド政権転覆は意図しない」というアメリカ
もっとも、以上のように今回の攻撃はあくまで化学兵器使用に対する懲罰的攻撃であり、米英仏3か国もアサド政権の転覆を意図するものではないことを明言しています。実際、攻撃されたのはアサド政権の化学兵器関連施設3か所のみであり、しかも要員や運べる機材・資料を搬出する時間的余裕が十分にありましたから、アサド政権側のダメージは極めて軽微に終わっています。 今回、攻撃を正当化する声明で、3か国首脳はいずれもシリア内戦で市民の虐殺が続くことなど「人道的」理由に触れていますが、それはあくまで付随的な要素であり、主な正当性は化学兵器使用抑止であることを明言しています。 これに関して、実はアメリカの方針は一貫しています。トランプ政権は発足時から現在まで、「ISは殲滅するが、アサド政権排除に軍事介入しない」「化学兵器使用は許さない」としています。そして、実際、昨年4月にアサド政権がサリンを使用した際も、限定的な懲罰的攻撃を実施しています。 ただ、サリン以外の塩素ガスの使用に対しては、これまで懲罰攻撃は行わずにスルーしてきたため、アサド政権は塩素ガスなら懲罰されないとみなし、住民殺戮(さつりく)に多用するようになっていました。今回、アメリカが特に反応したのは、ほぼ2か月にわたって東グータ地区でアサド政権とロシア軍による徹底的な無差別攻撃が行われ、女性や子供も含めて1000人以上もの一般住民が殺戮され、地獄のような人道危機に世界の注目が集まっていたまさにその時に、化学兵器攻撃が行われたからでしょう。(今回の化学兵器攻撃に、塩素ガスと神経ガスの混合物が使用された可能性が指摘されていますが、確認されていません)