アジア・アフリカの電化に貢献。海のガス輸入基地。商船三井、改造工事に魂注ぐ。連載(下)
シンガポール北部、マレーシアとの国境ジョホール海峡に面するアドミラルティ造船所。 シンガポール造船大手シートリアム傘下の同造船所では、商船三井とトルコのカラデニズグループの合弁事業KARMOL向けFSRU(浮体式LNG〈液化天然ガス〉貯蔵・再ガス化設備)の改造工事が進んでいる。 「LNG船からFSRUへの改造プロジェクトは非常にユニークだ。一般商船とは異なり、船主であるKARMOL自らプロジェクトマネジメントの責任を担う」 造船所の一角にあるKARMOL専用オフィス。カラデニズの洋上発電事業子会社カルパワーシップのプロジェクトコーディネーター、キム・ミンジュン氏はFSRU工事の特徴をそう語った。 通常の新造船は、造船所が竣工までの全ての建造責任を負うフルターンキー契約で建造される。一方、FSRU改造工事は造船所に全てを任せるのではなく、船主がEPC(設計・調達・建造)に関与して全体のプロジェクトマネジメントを手掛けていく。 改造現場に常駐する、商船三井のシンガポール現地法人MOLアジア・オセアニア(MOLAO)のテクニカルシニアマネジャー、ウディアン・ラトーレ氏は幅広い関係者をまとめ上げる醍醐味(だいごみ)について話す。 「商船三井、カルパワーシップ、KARMOL、造船所、機器メーカーを含め、全員が一つのチームとして働いている。プロジェクトに魂と汗を注がなければ完工にはたどりつかない」
■低炭素シフト貢献
商船三井とカラデニズグループは2019年、洋上LNG発電事業のパートナーシップを始動した。 FSRUと発電船を組み合わせる同事業は、LNGをFSRUで受け入れて再ガス化し、発電船に送って電力を生み出し、陸上に供給するコンセプトだ。 「陸上基地を建設するよりも低い投資額で、早期にLNG発電を導入できる。アジアやアフリカの新興国を中心に石炭、石油からLNGという低炭素エネルギーへのシフトに貢献する」 アジア各国の営業に力を注ぐMOLAOの由利毅ゼネラルマネジャーは事業の意義をそう述べる。 カラデニズは従来、重油やガスオイルを燃料とする洋上発電事業を展開してきたが、FSRUのノウハウを有する商船三井とのタッグにより、LNG発電への展開が可能となった。 商船三井にとっても、新興国での事業実績が豊富なカラデニズとのパートナーシップは新市場開拓におけるメリットが大きい。 KARMOLはこれまでLNG船のFSRUへの改造工事で3隻を完工済み。現在、アドミラルティ造船所では4隻目の「LNGT Antarctica」の改造工事が進む。工事予定期間は約1年で、来年中ごろの完工を予定する。